頼れるベテランが復活へ 東出輝裕が作ったカープの絆

一回り大きくなって帰ってきたチームの柱

 結果的にカープはCSに進出するも、東出の実戦復帰はならなかった。だが、若い力が育ったのは明らかだった。ここに今季、東出という精神的支柱が加われば、また一回り強いカープが見られるだろう。「東出と一緒に」は今年こそ実現しようと選手たちは意気込んでいる。

 そして、忘れてはならないのが悔しさから這い上がろうとする堂林の存在だ。人一倍、東出への強い思いを持っていたが、昨シーズン途中に死球によって左手首を骨折し、戦線を離脱。2軍で調整中は、怪我でリハビリをする東出や前田智徳の姿を目に焼き付けた。2人が地道に努力をしている姿は堂林にとって新シーズンへの力となった。

 また、東出は一人の男に刺激を受けていた。昨季途中に巨人に移籍した元チームメイトの青木高広投手だ。自身が怪我をした1年前に、青木も同じ左膝の手術を受けていた。「絶望のどん底にいた」という青木の姿を東出は見ていた。

 その青木は懸命なリハビリや家族の支えで、試合に投げられるまでに回復。巨人にトレードで移籍した後は中継ぎで大活躍した。リーグ優勝にも貢献し、日本シリーズに登板するまでになった。たった1年でも状況は劇的に変わる。次は東出の復活の番だ。

 誰もがその復活劇を待ち望んでいる。今年のキャンプ。実戦復帰を果たした東出は復活の二塁打を放った。その時、ヒットになったボールを記念にすべく、ベンチから「ボール! ボール!」と相手の守備陣に声がかけられた。プロ初安打や初ホームランをした選手にボールが戻るように指示するのはよく見られるが、それと同じように後輩たちが、東出の手にボールが渡るように指示をしていた。ナインはみんな、東出の苦しみを見ていたからこそ、自分のことのように喜んだ。東出にとっても忘れられない復活の一打になった。

 野球は一人ではできない。怪我をすることで、チームの絆をより強く感じることがある。チームの柱はまた一回り大きくなってカープに帰ってきた。簡単には動じない。固く結ばれた絆で、悲願のCS初優勝、そしてその先の日本一を目指す。

【了】

フルカウント編集部●文 text by Full-Count

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