広島に2年ぶり単独首位をもたらした一岡竜司の気迫
巨人がスカウティングしてくれたから、今がある
一岡は大分・藤蔭高校では右肘を痛め、満足のいく野球生活を送れなかった。3年生時には公式戦の登板はなし。そのまま引退した。投げられない投手に大学からのオファーももちろんなかった。ただ野球は続けたかった。「プロを目指したい」。その思いが消えなかった。
だが、同時に「プロになんてなれないかもしれない」という現実もあった。エンジニアに興味を持っており、沖データコンピュータ教育学院という社会人野球チームに進んだ。同校を経た後に就職という選択肢も視野にはあった。ただ、少しずつ、肘の状態が良くなるにつれ、球速が上がった。驚くことに150キロ近くまで出せるようになっていった。
注目は集まり、JR九州の補強選手として都市対抗にも出場。プロのスカウトの目にも留まり始めた。一岡は言う。
「プロになりたかったですけど、ダメかなとも思っていました。プロになったことが今でも信じられないときもあった。こんな専門学生だった僕を見出してくれたのですから、(巨人には)感謝の思いでいっぱいです」
巨人がスカウティングしてくれていなかったら、この巨人と広島の両球団の声援が飛び交う東京ドームのマウンドで投げることもできなかった。
一岡は童顔で優しい性格から巨人ファンからも愛される存在だった。巨人ファンへの感謝も忘れていない。背番号30番の恩返し投球は、まだ始まったばかり。巨人相手に格好悪い姿は見せられない。この日も、感謝の思いが気迫のピッチングにつながっていた。
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フルカウント編集部●文 text by Full-Count