時には監督にも直談判 レンジャーズを牽引するエイドリアン・ベルトレの魅力

「Heart and Hustle Award」に選出

 自分の意見を通すだけではワガママな選手で終わってしまうが、ベルトレの場合、その日その日に自分の持つ100パーセントの力を注ぐ。決して準備を怠ることはないし、怠慢プレーなんてもっての外。若手に説教をすることはないが、守備でも打席でも、全力で正しいプレーをすることで、手本となるべき姿を示している。

 現在レンジャーズの正二塁手で、メジャー最年少20歳のルーグネッド・オドルは「野球に関してはもちろん、野球を離れた日常生活でも尊敬できる存在」と話す。

「試合に入る前の準備だったり、打球に対する一歩目の踏み出し方だったり、本当に参考になることばっかりなんだ。自分のわからないことや疑問に思ったことを質問すれば、親身になって教えてくれる。選手として尊敬できるだけじゃなくて、普段一緒にいても面倒を見てくれるし、間違ったことをした時はちゃんと叱ってくれる。一緒のチームでプレーできて本当に幸せだと思うよ」

 監督やチームメイトから一目置かれる存在のベルトレが、先日メジャーリーグOB選手会からレンジャーズの「Heart and Hustle Award」に選ばれた。全身全霊を尽くしてハッスルプレーする選手に与えられるこの賞に輝いたベルトレは「自分にとって大きな意味を持つ賞だよ」と、強面の顔に大きな笑みを浮かべた。

「メジャーを経験したOBたちが選んでくれたということに対して、とても謙虚な思いになると同時に誇りに思う。もちろん、今は自分たちが願うようなチーム状況にはないけれど、それでも自分には毎日試合に向けて準備するという仕事がある。どんな状況にあっても、試合に対する姿勢は同じであるべきだと思うんだ。

 時には、その準備が勝利には結びつかないこともある。でも、一日の終わりに鏡で自分の姿を見た時、その日できる限りの全力は尽くしたと言う自信はある。自分は言葉で伝えるのは苦手だから、一生懸命プレーすることで若手に何か伝えられれば、と思うんだ。どんな状況であれ、その日の全力を尽くさなければならない。それが仕事だから」

 言葉ではなく態度で示す。その思いは、若手にしっかりと伝わっている。

【了】

佐藤直子●文 text by Naoko Sato

群馬県出身。横浜国立大学教育学部卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーとなり渡米。以来、メジャーリーグを中心に取材活動を続ける。2006年から日刊スポーツ通信員。その他、趣味がこうじてプロレス関連の翻訳にも携わる。翻訳書に「リック・フレアー自伝 トゥー・ビー・ザ・マン」、「ストーンコールド・トゥルース」(ともにエンターブレイン)などがある。

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