MLBの次期コミッショナーの座は誰の手に 長年辣腕を振るってきたバド・セリグ氏の後任は近日中にも発表へ

新コミッショナーと30球団オーナーは一枚岩でいられるのか

 実は、今回の次期コミッショナー決定投票に至るまで、多少すったもんだがあった。来年1月に80歳の誕生日を迎えるセリグ氏は、自分がトップに立つ日々もそれほど長くはないと感じたのか、数年前から自ら肝いりの人物に後を継がせる準備を進めていた。それが、MLB最高執行責任者のマンフレッド氏だ。

 それまで労使関係の問題や財政関係の問題で辣腕を振るっていたマンフレッド氏を、昨年9月に最高執行責任者に任命。コミッショナー・オフィスでの日々の業務はマンフレッド氏に任せていた。つまり、MLBナンバー2のポジションに就かせ、徐々に業務移行を図っていたというわけだ。

 この人事が発表された時点で、誰もが次期コミッショナーはマンフレッド氏だと思っていたが、そこに待ったを掛けたのが、長年セリグ氏の大切な協力者だったホワイトソックスのオーナー、ジェリー・ラインズドルフ氏だった。

 現地の複数報道を総合すると、ラインズドルフ氏が異議を唱えた建前上の理由は、コミッショナーたる重要なポジションは、世襲制ではなく合議制で決められるべきだ、という点にあるようだ。

 さすがは民主主義国家アメリカ、と思いきや、本当の理由は、自分とあまり懇意ではないマンフレッド氏がコミッショナーに就任した場合、自分の意見が通りづらくなるから、ということらしい。さらに、マンフレッド氏は選手会との労使交渉にあたってきた中心人物で、最近3回の労使交渉はストライキを経ずしての締結に成功している。選手会に対して穏健派と見られるマンフレッド氏と対極に位置するのが、強硬派と見られるラインズドルフ氏という構図も、背景にあることを忘れてはならない。

 いずれにせよ、建前上の理由は、誰も否とは言えない正論だ。そこで、5月15日にカージナルスのオーナー、ビル・デュウィット氏を委員長とするオーナー7人で結成された選定委員会が結成されたというわけだ。

 先日8日、セリグ氏は次期コミッショナー選出の件に関して「自分は特定の候補者を後押しすることはない。30球団のオーナーの投票で適切な人物が選ばれるだろう。一部報道でラインズドルフ氏と自分の不仲や、オーナー間での見解の違いが伝えられているが、事実無根であり意味のないこと」と声明を発表している。

 紆余曲折を経たが、14日の投票ではマンフレッド氏の選出が有力だと目されている。次期コミッショナーが選ばれた後、30球団オーナーはコミッショナーと一枚岩でいられるのか。セリグ氏の引退は、各方面に大きな影響を与えることになりそうだ。

【了】

佐藤直子●文 text by Naoko Sato

群馬県出身。横浜国立大学教育学部卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーとなり渡米。以来、メジャーリーグを中心に取材活動を続ける。2006年から日刊スポーツ通信員。その他、趣味がこうじてプロレス関連の翻訳にも携わる。翻訳書に「リック・フレアー自伝 トゥー・ビー・ザ・マン」、「ストーンコールド・トゥルース」(ともにエンターブレイン)などがある。

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