今や「リーグを代表する先発の1人」の評価を受ける岩隈久志 1年7億円は“バーゲン価格”?
マリナーズにとって“お買い得”の契約も結果論の側面
一昨年のオフに2013年から2年1400万ドル(約14億4000万円)+2015年は球団オプション(700万ドル=約7億2000万円もしくは100万ドル=約1億300万円のバイアウト)という契約を結んだわけだが、今の活躍に照らし合わせると、来季の700万ドルという金額はバーゲン価格以外の何物でもない。ジャック・ズレンシックGMは「我々がクマ(岩隈の愛称)を大好きなのは知ってるだろ。もちろん、来年もマリナーズの一員として戦ってもらうよ」と球団オプション行使を明言しているが、大方の予想では、今季終了後にも契約の結び直しが行われるはずだ。
昨季のクオリファイング・オファー(QO)が1410万ドルだったことを考えると、もし岩隈が今季終了後にフリーエージェントになった場合、QOと同額、それ以上はもらえるだろう。つまり、球団オプションで受け取る額の2倍は期待してもいい。やっぱり、マリナーズはお得な買い物をしたことになる。
だが、この論理はあくまで結果論でしかないことを忘れてはならない。普通に考えれば、1年700万ドルは決して安い額ではない。安いと感じられるのは、岩隈がこれだけの成績を残しているからだ。この契約が結ばれた2年前まで、時計の針を巻き戻してみよう。
2012年11月4日の時点で、この契約は岩隈に不利な内容だ、と異議を唱える声はあっただろうか。ほとんどなかったはずだ。なぜなら、岩隈が大きな故障もなく、ここまで安定した活躍をするとは、誰も予想していなかったからだ。
話は2010年オフまでさかのぼる。この年、ポスティングシステムを利用してメジャー移籍を目指した岩隈だったが、旧制度の規定により最高額で交渉権を入札したアスレチックスとの交渉がまとまらなかった。アスレチックス側は1年300~400万ドルの年俸を想定していたが、岩隈サイドは1年1200~1300万ドルを想定していたとされ、両者の間には大きな隔たりがあった。
結果、岩隈は翌2011年も楽天でプレーし、海外FA権を獲得するそのオフに再びメジャー移籍を目指すことになった。が、ここでその後の交渉にも多かれ少なかれ影響を与える出来事が起きてしまう。肩の怪我だ。
5年連続の開幕投手を務め、4月の月間MVPを獲得するなど、上々のスタートを切った2011年シーズンだったが、5月に右肩を負傷。約2カ月の戦線離脱を余儀なくされた。7月後半に戦列復帰後は勝ち星こそ伸びなかったが、最終的に119回を投げて防御率2・42、WHIP1・05という好成績を残した。
だが、メジャー選手の場合も同様だが、FAになる年に負った怪我は契約交渉に大きな影響を与える。日本に足繁く通った各球団のスカウトたちは、岩隈の持つ能力を高く評価していたが、それよりも怪我の再発を心配する声が上回っていた。
最終的にマリナーズと結んだ契約も1年150万ドル+出来高で、すべての条件をクリアすれば合計340万ドルになるというものだった。