今や「リーグを代表する先発の1人」の評価を受ける岩隈久志 1年7億円は“バーゲン価格”?
岩隈にとって実質3年2100万ドルの契約は決して不利なものではなかった
キャンプが終わっても、肩が十分にできあがっていないという理由で、先発ローテーション入りは叶わずに、ブルペンで開幕を迎えることに。2012年7月2日に初先発を果たすまでは、ロングリリーバーとして極限られた場面での登板機会しかなかった。マリナーズが岩隈を慎重に扱ったのは、出来高の条件をクリアさせたくなかったこともあるだろうが、何よりも肩の怪我の再発を恐れていたからだ。
シーズン後半から先発ローテーション入りを果たし、最終的には16試合に先発して8勝4敗、防御率2・65という数字を残した。健康な状態でシーズンを締めくくったものの、怪我に対する疑念は完全に払拭されたわけではなかった。そこで結ばれたのが、2年1400万ドル+3年目は球団オプションで700万ドル、という契約だった。
球団としては、できるだけリスクの少ない契約にしたい。選手としては、複数年契約を結んで毎年契約の心配をする煩わしさを取り除きたい。マリナーズとしては、万が一怪我をした場合はオプションを行使しなければいいし、岩隈サイドとしては、この時すでにメジャーで渡り合える自信はある程度持っていたはずだ。だからこそ、1年目を150万ドルで終えた選手にとって、みなしではあるが実質3年2100万ドルという契約内容は決して不利なものではなかっただろう。
その後の活躍ぶりはご存じのとおりだ。岩隈は自分のパフォーマンスを通じて、健康にはまったく問題がないこと、そしてメジャーで屈指の安定感を持つピッチャーであることを証明した。マリナーズはリスクを負うどころか、これほどお得な買い物はなかっただろう。来年の球団オプション700万ドルは安すぎる、という声が上がるのも当然だ。
現在、2001年以来となるプレーオフ進出をかけて戦うマリナーズの強みは投手陣だ。今後2~5年先のチーム構成を思い浮かべた時に、ヘルナンデスと岩隈の二枚看板が先発ローテーションの中心となることは間違いない。ズレンシックGMはニヤリと笑いながら「何があるか分からないよ」と含みを持たせたが、このオフには延長を含めた契約再交渉が行われる公算が高い。さもなくば、2015年オフのFA市場で大きな目玉となるはずだ。
だが、それもこれもすべてはシーズン終了後の話。まずは、ワイルドカード争いに踏みとどまり、プレーオフに出場することに全力を注ぐ。
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佐藤直子●文 text by Naoko Sato
群馬県出身。横浜国立大学教育学部卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーとなり渡米。以来、メジャーリーグを中心に取材活動を続ける。2006年から日刊スポーツ通信員。その他、趣味がこうじてプロレス関連の翻訳にも携わる。翻訳書に「リック・フレアー自伝 トゥー・ビー・ザ・マン」、「ストーンコールド・トゥルース」(ともにエンターブレイン)などがある。