なぜ稲葉篤紀は今年限りでユニホームを脱ぐのか 今季開幕前から始まっていた“カウントダウン”
栗山監督は「技術がある選手は長く続けられる。イナもあと10年はできる」
世界のホームラン王・王貞治は1980年に現役を引退した。その年、30本塁打を放ちながらも「王貞治のバッティングができなくなった」とバットを置いた。野球ファンなら誰もが知るエピソードだ。日本ハムの稲葉篤紀も同様の考えを持っていた。
9月2日。今季限りで20年間の現役生活にピリオドを打つことを表明した。史上39人目の2000本安打。首位打者。シーズン最多安打。ゴールデングラブ賞。日本シリーズMVP。日本一。そしてWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)での世界一奪取。プロ野球界に残した功績は大きい。
今シーズン序盤。いや開幕直後の4月中旬。左膝にメスを入れた。42歳という年齢を考えれば、肉体的、精神的ダメージは計り知れない。
だが、7月中旬、グラウンドに戻ってきた。そして8月14日のロッテ戦で逆転2ランを放ち、チームを勝利へと導いた。全盛期に比べると、もちろん打撃力は落ちた。だが、その勝負強さは今もなお健在で一線級だ。
まだまだできる――。そんな声は少なくない。
たとえ、レギュラーを張れなくとも。たとえ、DHでの出場が続いても。たとえ、代打専任となっても。打席に立ち続けることは決して不可能ではない。日本ハムの栗山監督も「技術がある選手は長く続けられる。本人がどこで良しとするかだけど、イナ(稲葉)もあと10年はできる」と言ったほどだ。
しかし、引退を決意した。「悔いはないです。まったくないです」とも言い切る。理由はただ1つ。稲葉も言った。「自分のバッティングができなくなった」と。