セCS最終ステージ 阪神と巨人、両軍に所属した男がキーマンに挙げる1人の捕手
“黒子”に徹することができる藤井
日本人投手とアメリカで登板経験のある投手の決定的な違いはリード面にある。日本は捕手主体でサインが出されるが、アメリカではピッチャーが主導権を握る。ほとんどのピッチャーが自分の投げたいボールを投げる。打たれたら投手自身の責任。捕手の要求、リードが悪くて打たれて、自分の給料、評価にかかわるのは御免だ、という考え方がある。
中谷氏は「キャッチャーという人間は、自分がリードしている、このゲームを支配するという気持ちで試合に入っている人もいます。ですが、藤井選手の場合は自分を“押し殺す”というか、黒子に徹することができる。メッセンジャーも気持ちよく投げられたと思います」と話し、メッセンジャーを8回までの好投を導いた藤井を称えた。
呉昇桓に関しては「アメリカ人の投手とは違いますが、韓国選手はとても目上の人を大事にする傾向があります。その点、38歳の藤井選手のことを32歳の呉昇桓はリード面で全幅の信頼を置いていたと思います」。2試合連続で受けた守護神のリードにも問題はなかったと見る。
藤井は今年ケガが多く、試合に出られなかったこと多かったが、それが返って功を奏した。相手チームの目も藤井のリードに慣れていない。最終ステージで対戦する巨人とは今年序盤に4度、先発マスクをかぶり、3勝1敗と対戦成績の分はいい。一昨年までは選手、昨年まで巨人のブルペン捕手として裏方にいた中谷氏は一方で巨人の強さも理解している。
「巨人の選手たちは本当に取り組み方の意識も高い。原監督も苦しみながらも選手起用がうまい。両チームにいたので、対戦には複雑な気持ちもありますが、捕手目線で見たいと思います」。最終ステージの初戦、阪神は鶴岡がマスクをかぶることが有力だが、中谷氏は藤井の存在VS巨人打線という観点でも、このシリーズに注目していく。
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中谷仁プロフィール
和歌山県出身。智弁和歌山高校で1996年センバツ準優勝。1997年夏の甲子園で京都の平安高校を破り、全国制覇。同年の阪神ドラフト1位で入団。2位は現オリックスの井川慶だった。2005年オフに金銭トレードで楽天に移籍。09年には野村克也監督の元、クライマックス・シリーズにも出場。2012年に巨人に移籍。この年に引退し、ブルペン捕手に。WBC日本代表のブルペン捕手としてチームに帯同。現在は大阪の野球教室「上達屋」で子供を指導。グラウンドの外から野球を勉強中。集英社「Sportiva」のウェブサイトで「エースの響き」を連載中。
フルカウント編集部●文 text by Full-Count