今オフ最も変貌したMLB球団は? 「プラスα」見込んだ補強で優勝候補に
補強を手掛けたA・J・プレラー氏は「ロックスターGM」として人気上昇
若手が集まる投手陣は、時速100マイル(約161キロ)の速球を投げるリリーバー、マウアーが加入したくらいで、ほぼ変わらぬ顔ぶれのままかと思われた。それでも十分に安定した戦力だが、シールズの獲得で1段階グレードアップしたと言わざるを得ない。
昨季、ワールドシリーズにコマを進めたロイヤルズは、2013年にレイズからシールズをトレードで獲得したことで、投手陣はもちろんチームとしての安定感とまとまりを増した。これはロイヤルズのムーアGMも認めるところで、実績のあるベテラン投手であることに加え、クラブハウス内でチームリーダーとして若手に与えた影響力について言及していた。大一番で強さを発揮する“ビッグゲーム・ジェームズ”の異名を持つベテランは、昨季のプレーオフで旋風を巻き起こしたロイヤルズの精神的支柱になったが、間違いなくパドレスでも同じ効果が期待できるはずだ。
今オフに加入した新メンバーが、いずれもプレーオフ出場経験を持つことも大きなプラスになる。ここ数年は負け慣れていたパドレスにとって「勝つ文化」の注入は何よりも大切なことだろう。21世紀の時代に精神論を持ち出せば時代錯誤と言われかねないが、成績のいい選手だけを集めてもチームとしてうまく機能しないことがあるのは、ファンタジーゲームやテレビゲームと違って、実際の試合では感情を持つ生身の人間がプレーしているからだ。
野球は個人競技ではなくチーム競技なのだから、勝ち方を知る選手がそれを知らない選手にヒントやアドバイスを伝えられれば、個人成績の寄せ集め以上の効果が生まれるはず。今オフのパドレスの補強は、単なる戦力補強に止まらず、チームとしてのまとまりに対して「プラスα」の効果を見込んだ緻密な補強と言えるだろう。
さらに、これだけの大型補強をしても今季の年俸総額は1億ドルをわずかに上回るだけと予想されている。昨季年俸総の約9100万ドルから約1000万ドルの上積みをしたわけだが、それでも30球団を見渡せば、ちょうど真ん中の15位あたりに相当する額だ。湯水のように大金を投資するわけではなく、手持ちの人材を生かしながらの補強方法もまた緻密と言える。
入団会見でケンプに「ロックスターGM」と呼ばれたプレラーGMは、地元サンディエゴでTシャツが販売されるほどの人気ぶりを見せている。今季のパドレスに掛かる期待は大きく、集まる注目も近年にない高さとなるはずだ。期待に応えられるチームとなるのか否か。新GMの手腕が試される。
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佐藤直子●文 text by Naoko Sato
佐藤直子 プロフィール
群馬県出身。横浜国立大学教育学部卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーとなり渡米。以来、メジャーリーグを中心に取材活動を続ける。2006年から日刊スポーツ通信員。その他、趣味がこうじてプロレス関連の翻訳にも携わる。翻訳書に「リック・フレアー自伝 トゥー・ビー・ザ・マン」、「ストーンコールド・トゥルース」(ともにエンターブレイン)などがある。