思い出される1試合3発の記憶 フリー打撃で蘇った松坂VS松中の名勝負
松坂は「特別な存在」、お互いが力を認めていたからこそ生まれた名勝負
6回の打席は2塁打。そして、この試合最後の対戦となったのは9回裏だった。3-3の同点。先頭で打席に入った松中は、この試合3本目となるホームランでサヨナラ勝ちを決めた。右翼席に運ぶ32号サヨナラ弾。右手でガッツポーズし、1塁を回るときにはランナーコーチとハイタッチ。このときも松坂は松中にストレートを投げ込んでいた。
試合後、松中は「松坂大輔は私にとって特別な存在ですから。打ててうれしい」と言葉を残している。
松坂が1試合に3本塁打を浴びたのは初めての経験だった。対戦成績は130打数42安打の打率3割2分3厘、34打点、12本塁打。日本で最も本塁打を浴びた打者が松中だった。松坂はこのとき、3被弾にも表情ひとつ変えず「完璧にやられました」と試合後にコメントしている。
どれも決して甘い球ではなかった。自信のあるストレートで1本目を打たれて、闘争本能に火がついた。ねじ伏せにいこうとしたストレートが、力ではじき返され、最後もサヨナラ被弾。表情を変えなかったことに松坂の悔しさが見て取れた。
ストレートを続けた松坂大輔と、それをことごとく打ち砕いた松中信彦。パ・リーグで一時代を築いた男たちの名勝負は、今回、同じユニホームを着たことで蘇った。1選手による1試合3本塁打は日本プロ野球の歴史でも10度以上あるが、球界を代表するエースと4番の対戦ではそうあることではない。お互いが力を認めていたからこそ生まれた名勝負だった。
動画はこちら:語り継がれるあのシーン4【2005年7月15日 松中vs松坂 松坂投手気迫の直球勝負を松中選手3本塁打で粉砕】/パ・リーグTV
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フルカウント編集部●文 text by Full-Count