【小島啓民の目】全ては技術に直結 侍ジャパン仁志、稲葉両コーチに見る道具の優れた扱い方

大学生でも理解度が低い木製バットの芯の位置、金属バットとは指導も異なる

 高校野球では甲子園でも「大会第○号です」などと沢山のホームランがでますが、木製バットであれば激減するはず。現に東京ドームで毎年開催される都市対抗野球大会では1979年第50回大会から2001年第72回大会までの金属バット時代から、2002年73回大会以降、木製バット時代となり、本塁打数は半減しています。

 一概に金属バットと木製バットが要因であるとは思いませんが、圧倒的に金属バット時代がバッター有利だったことは間違いありません。また、高校時代のホームラン何本という数字では、数本の差に大きな違いはなく、参考値としてか使えないと言えるでしょう。

 このように、金属バットと木製バットでは大きく特性が異なり、求めらる技術そのものも違ってきます。金属バットは木製より飛ぶ確率が高くなるので、できる限り、バットに当てることを考えれば良いと思います。さらに芯の幅が広いわけですから、よりバットに当てるのはやさしくなるはずです。

 もし、金属バットで勝つ野球を目指すのであれば、私なら「バットに当てやすいように、できる限り反動を使わず、ステップ幅を小さくして、目の位置の変動が少なくなるようにする」と答えるでしょう。さらに「トップに近い位置にバットを構え、身体の反動が使いづらい分、上半身、特に腕力を鍛え、早くバットを振る練習をする方が得策かもしれません」とも回答します。

 一方、木製バットは芯は一箇所。しかも、それ以外の部位に当たる時はバットの力が必要となります。言い換えれば、バットにボールを正確に当てる技術とスイングスピードの速さが求められます。ご理解いただけると思いますが、当然、金属バットより木製バットの方が求めらる技術難度は高くなります。

 大学生に「木製バットの芯は?」と問う際に、よく理解できていないのが実情です。大学生の指導者もそれくらい知っているだろうと思って、指導していないのでしょうが、幼少期から高校まで金属バットを愛用している高校生が大学生になっているわけですから理解できていないのは、当たり前と言えば、当たり前のことなのかもしれません。

 もし、この記事を見ているプロの指導者の方がいれば、入団1年目のスタートにはぜひ「バットの芯は?」というところから指導することをお勧め致します。

 このようにスポーツの世界では、使用する道具の仕様が変わるということは非常に大きな問題です。ボールの重さ、形状などが違うということは、それに対応する技術を変えなければいけない。したがって、プレーヤーは、今使っている道具の特徴、特性をしっかりと把握することが技術を習得する以前に特に重要なこととなります。

 技術の習得の前に、道具の特性をよく知ること。道具と常に触れ合って、さらに仁志さんのように道具を大切に扱うことが大事です。

【了】

小島啓民●文 text by Hirotami Kojima

小島啓民 プロフィール

kojima
1964年3月3日生まれ。長崎県出身。長崎県立諫早高で三塁手として甲子園に出場。早大に進学し、社会人野球の名門・三菱重工長崎でプレー。1991年、都市対抗野球では4番打者として準優勝に貢献し、久慈賞受賞、社会人野球ベストナインに。1992年バルセロナ五輪に出場し、銅メダルを獲得。1995年~2000年まで三菱重工長崎で監督。1999年の都市対抗野球では準優勝。日本代表チームのコーチも歴任。2000年から1年間、JOC在外研修員としてサンディエゴパドレス1Aコーチとして、コーチングを学ぶ。2010年広州アジア大会では監督で銅メダル、2013年東アジア大会では金メダル。侍ジャパンの台湾遠征時もバルセロナ五輪でチームメートだった小久保監督をヘッドコーチとして支えた。2014年韓国で開催されたアジア大会でも2大会連続で銅メダル。プロ・アマ混成の第1回21Uワールドカップでも侍ジャパンのヘッドコーチで準優勝。公式ブログ「BASEBALL PLUS(http://baseballplus.blogspot.jp/)」も野球関係者の間では人気となっている。

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