「プロに来て良かった」――ほろ苦デビューから1か月、ロッテ田中英祐の思い
一軍デビューから1か月、京大卒ルーキーの現在地
入団からここまで、田中英祐の周りには常に多くの人がいた。ドラフト2位指名を受けた2014年秋のドラフト会議に始まり、新入団選手発表会、新人合同自主トレ、石垣春季キャンプ、オープン戦。どこにいても、注目を一身に浴びる日々が続いた。
4月29日の埼玉西武戦。この日も同じだった。
青空の下、多くの観客が詰めかけた“マリンフェスタ”の開催日。チケットは完売し、QVCマリンのスタンドは超満員。華々しく彩られた試合で、田中は先発投手としてプロデビュー戦のマウンドに上がった。
「先頭を打ち取って落ち着きたかったけれど、自分のペースで投げられないまま、ズルズルといってしまった」と本人が振り返るように、初回から制球に苦しんだ。合計4本のタイムリーを浴びるなど、結果は3回6安打5失点。到底納得のいくものではなかった。
初登板の思い出について、「緊張していたのでよく覚えていない」というエピソードを話す選手は多い。しかし、田中の場合はすべてを鮮明に覚えている。
スタンドを埋め尽くしたファンの大歓声がしっかりと耳に入ってきたこと。ピンチを招くたびに、後ろを守っている先輩が声をかけてくれたこと。キャプテンの鈴木大地は何度もマウンドに駆け寄り、プロ14年目の今江敏晃は「緊張して当たり前。俺らだって緊張しているんだから」と励ましてくれた。
チーム最年長の井口資仁や、選手会長の岡田幸文が、あえて笑顔を向けて緊張を和らげようとする場面もあった。この時の選手たちは、田中の姿にいつかの自分を重ねていたのかもしれない。プロ初出場は誰もが通る道。目の前で明らかに動揺しているルーキーを、みんなで鼓舞し続けた。
元々、負けず嫌いな性格だ。たくさんの人が期待をしてくれたことは、田中自身がよくわかっている。だからこそ、応えられなかった悔しさは計り知れなかった。5月1日(北海道日本ハム戦)には中継ぎとして登板するも、押し出し四球を献上するなど3回4失点で降板。試合後、二軍で再調整することが決定した。