帰ってきたセットアッパー・DeNA田中健二朗、今季の成長の裏にあるもの
亡き母への後悔、それでも「今、やれることをやらねばいけないんです」
今年はオールスターのファン投票でも、セ・リーグの中継ぎ投手として1位(6月5日発表)の票を獲得。「嬉しいし光栄ですね。自分でいいのかなとも思いますが、でもまだ決まったわけではないので」とはにかみながらも気を引き締める。「今はオールスターよりもチームが勝つことが大事ですから」。ベイスターズファン、野球ファンの熱い思いは伝わっている。その期待に応えようと必死だ。
そんな田中には今年、野球で成績を残さないといけない理由がある。特別な思いがあるシーズンかもしれない。オープン戦登板予定だった2月28日のこと。最愛の母が急逝したのだ。
野球に夢中になっていた自分をずっと陰て支えてくれた母。自分は一体、何ができたのか。後悔の思いが胸をつく。
「もっと、たくさん会いに行ったり、親孝行したり、やれることはたくさんあったのに、何もしていなかった」
そう話す25歳は悲しみや後悔を自分のモチベーションに変えている。家族のためにも、今年の田中は今までに見たことのない“引き締まった心”でマウンドに向かう。「今、やれることをやらねばいけないんです」。雨空のその奥には母の顔が浮かんでいたのかもしれない。
今後の調子、成績次第では、大事な勝利の方程式に組み込まれていくだろう。悲願のリーグ優勝へ、誰よりも今年にかける思いは強い。
【了】
白井京子●文 text by Kyoko Shirai