新天地で燃える日本ハム・矢野謙次 生かされる巨人での13年
ブレない姿勢と道具への愛情、いつしか「代打の神様」と呼ばれる存在に
周りからは「無茶なプレーだ」、「時期を考えてプレーすれば良かった」などと言われたが、矢野はブレない。
「開幕前の大事な時期だから、無理をしないという選択肢はあったかもしれない。でも、ボールを必死に追いかけた結果だから」
全力プレーを怠ったら自分ではない。矢野はいつも手を抜くことはなかった。ファンに愛される理由だろう。
全力を注ぐのはプレーだけではない。道具への愛情も半端ではなかった。
きれいに磨くのは当然。雨や汗で湿った打撃グローブやスパイクなどをきれいに並べ、日のあたるところに干す。自分の使うバットは丁寧に並べ、大事そうに使い、持ち帰る。若い頃、道具に当たったことがあった。見ていたコーチから、道具に当たるような人に一流はいない、道具に泣くことになるという言葉を投げかけられた。それ以降、何があっても、物に当たることはしないと心がけた。
野球の神様は見ているのだろう。逆転満塁アーチだけでなく、9回2アウトからの同点劇、シーズン最終戦をサヨナラ本塁打で決めるなど、神懸かった打席が増えていった。いつしか矢野は「代打の神様」と呼ばれるようになった。
そんな選手だからファンから移籍を惜しまれる声も多かった。巨人ファンでなくても、矢野を好きなファンは多数いた。日本ハムに活躍の場を移しても矢野のプレーは色褪せることはないだろう。第2の野球人生のスタートも、輝かしいものとなった。
汗と涙を流した巨人での13年弱の歳月は、再び輝くための大切な時間と言えるかもしれない。野球に真摯に取り組んできた34歳。今後のさらなる活躍を期待したい。
【了】
フルカウント編集部●文 text by Full-Count