捨て切れなかったフルスイング 小笠原道大が崩さなかったスタイル
「ただずっと野球がうまくなりたい一心だった」―挑戦し続けた19年
小笠原はバットの真芯を多少外れていても、鍛え上げられた下半身の回転と上腕のパワーでどのコースでも長打にできた。しかし、2011年以降はそうはいかなかった。反面でずっと同じスタイルでやってきた自負もある。その狭間に揺れ、厳しい現実に直面した。
社会人のNTT関東時代。全体練習が終わった後、照明機器が消える暗闇の中で、毎日、何百、何千と素振りをした。日本ハム時代もプロのレベルに圧倒され、「このままでは1年でクビになる」という危機感から、誰よりも練習した。その中で築き上げた自身の美学。どんな時でもフルスイングで結果を出し、ファンに愛されてきた。それを失えば、自分ではなくなる。理想と現実。新たな着地点を探し、練習に時間を割いた。2011年以降は主に2軍にいたが、現状を打破しようと、練習で手を抜くことは一切なかった。
2012、2013年と思うような成績を残せず、心機一転、中日へFA移籍。左の代打の切り札として、地位を築いた。以前のようにピンポン玉のようにスタンドに放り込みはしない。ただ、フルスイングしながら、ボールをとらえにいくまでは力まず、インパクトの瞬間に一気に力を吐き出すような打撃を見せるようになった。
今年9月12日のヤクルト戦で決勝打を放った際に「闇雲にいくのではなく、しっかりと1球で仕留められるようにと思ったんですけど、うまい具合に仕留められてよかったです」と話したように、確実性、精度を求めたバッティングだった。
捨て切れなかったフルスイング。試行錯誤しながらも練習と準備を重ね、スタイルを最後まで貫いた。「ただずっと野球がうまくなりたい一心だった」と引退会見で述べた言葉に嘘はない。挑戦し続けた19年。ファンにフルスイングのイメージを最後まで植えつけ、現役生活に別れを告げた。
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フルカウント編集部●文 text by Full-Count