最後まで信念を貫いた中日・山本昌 ブレなかった“引き際”への考え方
自分自身で現役続行を選べた中で下した引退の決断
極めつきは今季初登板だった8月9日のヤクルト戦。投球動作の過程で指を痛めるという想定外の負傷で、「戦力」としての自身の価値に疑問を抱かざるをえなかっただろう。
それでもこの先、恐らくは数十年、山本昌にしか挑戦できない記録への挑戦権を得ていた。通算219勝。引き際を球団ではなく、自分自身で決められるだけの実績も残してきた。最年長記録にこだわるなら、年に数度の先発と割り切っての現役続行や中継ぎ、ワンポイントで1勝の機会を伺うことも可能だった。
しかし、信念を曲げることはなかった。10月7日、プロ野球史上初の50代での出場を成し遂げたラスト登板。首脳陣の配慮があったとはいえ、32年間の現役生活の締めくくりに踏んだ舞台もまた、こだわり続けた真っさらなマウンドだった。
これまで数え切れないほどの記録を塗り替えてきた。周囲から大きな期待を受け、励みにもしてきたモイヤーの最年長記録の更新は果たせなかったが、背番号34は引退会見で「世界で一番幸せな野球人生を送れた」とすがすがしい表情を浮かべていた。
記録ではなく、チームのために。哲学を貫いてその道程に終止符を打ったからこそ、残してきた数字の重みは増した。
【了】
フルカウント編集部●文 text by Full-Count