過去にいくつものドラマ 語り継がれる代打の形
一時代の終わりを象徴するような代打も
○カウント途中からの代打
代打の神秘は高校野球の世界にもある。敗戦濃厚の9回2アウトからの思い出代打や、特徴的なフォームで見ている者を魅了する代打など様々だ。
その中でも取り上げたいのが、取手二や常総学院で全国制覇を達成した木内幸男前監督の采配。先発起用されたあるバッターが2ストライクまで追い込まれるのを見ると「このバッターはタイミングが合っていないから打てない」と見抜き、カウントの途中から代打を送る。それが見事に的中し、勝利に導くことも多かった。これも1つの「木内マジック」と呼ばれるものだった。
代打を送られた方はどうなのだろうかという疑問も湧くが、この代打の後日談も強豪校らしい。送られた方の選手にふてくされる暇はなく、なぜ自分が代打を送られたのかをしっかり考えるようになるという。すると翌日の試合では再びスタメンに名前がある。木内監督はその投手にタイミングが合っていなかったと判断して代打を送ったのであり、実力を無視したわけではない。適材適所を見極めて采配する眼力を持っていた。
○忘れられない代打
1995年に現役を引退した原辰徳氏。昨年、巨人監督を勇退するまで、たくさんの栄光と感動をファンに届けてきた。現役の引退試合では劇的なホームランで締めくくった。若大将はさわやかにグラウンドを去った。ただその年、ファンに衝撃を与えたのは、長嶋茂雄監督(当時)がその原氏に代えて長島一茂氏を打席に送ったことだ。時代の移り変わりを表すような光景だった。
勝負を決める代打もあれば、世代交代や一時代の終わりを象徴するような代打もある。これからどのような代打の物語が生まれ、語り継がれていくのだろうか。
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フルカウント編集部●文 text by Full-Count