本塁の危険クロスプレー禁止で増える勝負所 ギャンブルスタートって何?

名勝負の裏にあった勝敗の分かれ目

 名勝負を演じた野村ヤクルトと森西武の戦い。前年、西武に敗れた92年日本シリーズ第7戦。1-1の7回裏。1アウト満塁でヤクルト杉浦亨の打球は一、二塁間へ。それを西武の名二塁手・辻発彦が好捕。本塁へ送球した。ボールは高くそれたが捕手の伊東勤がジャンプしながらうまくブロックし、三塁走者の広沢克実はタッチアウト。ライナーでの併殺を警戒した広沢のスタートが遅れたため、得点機を逃し、その後、ヤクルトは西武に敗れた。

 野村監督はこの教訓からギャンブルスタートを取り入れ、選手に練習をさせた。ナインの意識は確実に高まっていた。再び、日本シリーズで両者は対戦する。第7戦までもつれ、ヤクルトが3-2と1点リードの8回。古田敦也が三塁打を放ち、1アウト三塁。打者は広沢。西武は前進守備を敷き、バックホームに備えた。広沢の打球は高くバウンドし、投手の頭を越えた。遊撃手・田辺徳雄がさばくが、一塁へ送球し、1点が入った。

 田辺は悔しそうに天を仰いだ。三塁走者の古田がギャンブルスタートをしており、本塁は悠々セーフだったからだ。前進守備で何とか本塁生還を阻止したかったが、これがダメ押し点となり、ヤクルトは西武を下した。のちに野村監督はテレビ番組で実は「ギャンブルスタート」のサインを出していなかったことを明かした。昨年の悔しさと野村監督の考えが染みついた古田氏が独断で決めた好走塁だったという。監督の考えを選手が超えてプレーした強いチームだった。

 ギャンブルというくらいだからハイリスクだが、成功すれば、貴重な点を得られる。それほど手に汗握る瞬間になる。1点を争う終盤、三塁走者が走力のある選手の場面で増えることが予想されるギャンブルスタート。今年のプロ野球観戦で注目してみるのも面白いかもしれない。

【了】

フルカウント編集部●文 text by Full-Count

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