川崎宗則、「想像超える挑戦」の裏側 恩師が語る素顔と生き様
プロ入り直後に恩師と交わした約束、「僕に失敗はありません」の意味
入団当時はスピードはあったが、線が細くてホークスの練習にはとてもついていけない状態だった。試合には出ていたが、他チームの編成の方々の見方は1軍半が精一杯だろうというものが大方だった。
「森脇さんは僕のことをどう思いますか」
最初にそう相談を受けたのはその時期だったのを鮮明に覚えている。そして簡単な一つの約束を交わした。
「試合でも練習でも1球に悔いを残さない、不公平な世界に身を置いている、平等に与えられている時間を有効に使うこと」
それからというもの、浴びるぐらいのノックを受け、実際に倒れても弱音を吐くことはなかった。時々見に来られては心配されている御両親の姿が辛かったのも今は良い思い出の一つである。
日本でもアメリカでも、メジャーであろうとマイナーであろうとも、いかなる状況、環境でも1球1球、その瞬間に真摯に向き合い準備も含め最善を尽くす彼のプレースタイルが変わることはありえない。彼が成長していくプロセスは皆さんが存じておられる通りだ。
米国でも明るいキャラクターで選手、ファン、マスコミと全ての人から愛されている。面白可笑しな言動など少しプレーとは違ったところで注目を集めているが、それも彼の計算であり、彼自身なのだ。メジャーに挑戦した1年目は言葉、文化の違いに戸惑い円形脱毛症にもなった。その年のオフシーズンに食事をした時、「僕も繊細なんですね、1年目になっていて良かったです。ただ、あの時の練習の方がしんどかったからアメリカでも やっていけます」と、あくまでもポジティブだった。
「楽しむとは苦楽を味わうこと。これからの時間こそ目を背けることなく味わっていこう」
これは彼が1軍デビューの時に私が投げかけた言葉だった。そして、ムネは更に付け加えた。「上手くいかないことが多く苦しいけど味わっているから先に繋がるっていくし、楽しいです。僕に失敗はありません」と。「心配はいらない、しばらくは帰って来ないよ」というメッセージだったのだ。