ノーヒットノーランから一転… 中越エースが取り戻せなかったもの

生じた焦り、涙したエース

 11日に行われた夏の甲子園大会5日目の「富山第一対中越」の一戦は劇的な幕切れとなった。

 試合は投手戦で進んだ。中越のエース・今村はスライダーを低めに丁寧に決めて、相手打線に安打を与えなかった。ノーヒットノーランペースだったが、味方の援護もなく、試合は0-0のまま9回へと突入した。

 9回裏、富山第一の攻撃。今村は1アウトを取った後、4番狭間にこの試合初ヒットとなる二塁打を浴びて、ノーヒットノーランはなくなった。同時にサヨナラのピンチに。5番河原にはカウントを悪くした。3ボール1ストライク。歩かせて塁を埋めてもよかったが、外に狙った球が真ん中高めに入り、決勝のサヨナラ二塁打を左中間へ運ばれた。

 投手の心理からすれば、ここまでヒットを打たれなかったことで、かえって余裕がなくなっていた。今村は「ヒットが出て少し焦りが出たこと、また、冷静になれなかった」と明かし、涙を流した。

 甲子園のスタンドは満員。ノーヒットノーランの期待が高まったことで、その1球1球に視線が注がれ、ヒットが出るや、一転、相手チームの応援が息を吹き返した。初ヒット、サヨナラのピンチ、そして相手チームに送られる大声援が一瞬のうちに押し寄せてきた。投げているのは高校生。ここで焦りが出るのも無理はない。今村は自分のペースを取り戻すことはできなかった。

 それでも、大舞台で力投したことに変わりはない。わずか2安打で1失点。援護があれば結果はどうなっていたかわからない。たった1球、そしてスタンドの空気でも野球は変わる。それを思い知らされる印象深い試合となった。

【了】

フルカウント編集部●文 text by Full-Count

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