名将の“右腕”が明かす真実 「ID野球」は「野村さん本来の考え方じゃない」

野村氏の本当の凄さは「データ分析より観察力」

 もちろん、野村氏はデータも重視する。松井氏も、1軍ヘッドコーチ時代にはデータ整理などに力を割いたという。「スコアラーに対して要求が厳しい。だから、ヤクルト時代はスコアラーが育ちました」と振り返る。そのデータを分析し、特徴を洗い出し、試合に生かしていった。

「そこ(データ分析)から派生しているものはいっぱいあります。『野村ノート』と呼ばれるものとか、我々が研修で書いたノートとか、阪神に行ってからの『野村の考え』とか。それをまとめる能力が凄い。どの打者だって、追い込まれたら三振はしたくありません。三振したくないというバッティングになると、当然みんなが思っている。でも、それを文章にしようと誰が思いますか? 『その心理が働くから、逆をつく』。こういうことを文章にした人って、それまでに誰がいましたか? これが素晴らしいところです」

 ただ、「(凄いのは)データ分析よりも観察力だと思います。それが1つのIDといわれる部分かもしれない」と松井氏は言う。

「一流バッターとしての視点、キャッチャーというバッテリーの視点。野村さんには、この2つがミックスされています。その視点が素晴らしいところ。『盗塁されたら嫌だな』というのは、ピッチャーにはないキャッチャーの視点です。だから、盗塁されたくないと思った時に、野村さんはランナーを見た。じっと走者の動き見て『これ走ってくるな』と。こういう感覚はすごいと思います。ヤクルトに来て1年目のオープン戦で、ピッチドアウトを3回やって、3回ともバシバシ当てたこともありました」

 確かに「ID野球」は、本来の野村野球ではないのかもしれない。ただ、野村氏の類まれな観察力に野球人は一目を置き、「ID野球」は球界をリードした。名将の実績は、いつまでも輝き続ける。
 
【了】

フルカウント編集部●文 text by Full-Count

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