通算228盗塁、元G鈴木尚広氏が明かす盗塁の極意「投手を真面目に見ない」
代走前に必ずした意外な“ルーティン”
――笑ってたんですか?
「笑うと表情が緩むから、身体の力みも抜けるんです。だから、代走に出る前は、鏡を見てニコニコ笑顔を作って、自分で決めたセリフを鏡越しに自分に話し掛けてから、勢いよく出掛けていました。結局、代走で出ると、多少顔はこわばるんですけど、ほぐしてから出た方がこわばりも少なくなりますから。
常に緊張してたら、人は疲れちゃいますよ。肉体的な疲労や精神的な疲労が出て、143試合も戦っていられない。試合の中でも自分でオンとオフを作りながら、いいパフォーマンスが出せるように準備をすることが大切ですね。緊張と言えば、引退したから言いますけど、僕、代走に出る時は、5分に1回、いや、2、3分に1回はトイレに行ってました。緊張で(笑)」
――それは意外な真実ですね(笑)
「緊張するとトイレに行きたくなるじゃないですか。『あれ、1分前にしたのに、また行きたくなった』みたいな(笑)。自分では緊張していないつもりでも、身体はどこか正直な部分があって反応するんですよね。
多分、僕は東京ドームで一番トイレに行った人間かもしれない。NPB通算歴代1位(笑)。回数は多かった。後輩の中には、密かに『尚広さん、よくトイレ行くな』って思っていた奴はいるかもしれないですね」
――身体は正直です。
「最後まで消えることはなかったですね。自分の出番になると、少しずつ今まで広がっていたリラックスが、シュンと縮んでくるんです。それは自分でも感じるわけですよ。自分が決められた出番ってあるじゃないですか。この人が出たら自分だなっていうのが。そうなると、どこかシュンとなるから、トイレに行って、手を洗って、目が乾くのが嫌だったんで目を濡らして、笑顔を作って、鏡越しにセリフを言って、いざっ!て出掛けてました」
――228盗塁を積み重ねた影には、そんなルーティンもあったんですね。聞けば聞くほど、盗塁や走塁は奥が深いものです。
「盗塁1つの中にもいろいろな準備があって、いろいろな駆け引きがある。それを知った上で野球を見ると、また別の楽しみ方ができると思います。そういったことを、これからどんどん伝えていきたいですね」
【了】
フルカウント編集部●文 text by Full-Count