「今や知る術もありません」 侍ロッテ石川歩、宝刀シンカー生みの親とは
「とりあえず、これで…」から始まった勝負球…生みの親は今も不明のまま
否定されるのを覚悟で、勇気を振り絞って、「一応、シンカーも投げられますが…」と告白してみた。「やってみるか!」。思いがけない返事が返ってきた。早速、ブルペンで試してみることになった。自信はなかったが、みんなの前で投げた。精度は高いとは言い難かったが、「とりあえず、これで行こうか」とGOサインが出た。スタートはそんな感じだった。
しかし、そのボールは宝のような球種となった。石川の速球に磨きがかかるのに合わせて同じように成長をしていった。社会人・東京ガス3年目には目標としていたMAX150キロを計測。シンカーとのコンビネーションはこの時点では、すでにプロでもトップクラスのものに成長していた。そして、その球に魅了され、マリーンズとジャイアンツがドラフト1位で指名。抽選の結果、マリーンズのユニホームに袖を通した。
「本当、今思うとちょっとしたキッカケですよね。不思議です。高校時代も遊びでは投げていたことが何度かはありましたが、元々はテレビゲームの世界の中のボールとして憧れて遊びで投げていた程度。それに具体的に誰が教えてくれたのかと言われると、困ってしまいます。もう今や知る術もありません。ここまで、名乗り出てくれる人もいないです」
ストレートのような軌道でストンと落ちる。しかも両サイド一杯に決まる。強打者を困らせ、最優秀防御率を獲得するキッカケにもなったあのシンカーの生みの親はしかし、今も不明のままだ。きっと教えたチームメートも覚えてもいないし、まさかそんなキッカケがあのボールを生んだと誰も思ってもいないのだろう。人生とは本当に不思議なものである。そして、その偶然の産物でもある伝家の宝刀を武器に、石川は世界に挑む。チームの石垣島キャンプを終えると侍ジャパンへと合流。いよいよ世界との戦いが待っている。
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(記事提供:パ・リーグ インサイト)
マリーンズ球団広報 梶原紀章●文 text by Noriaki Kajiwara