「だから本塁打でも大喜びしない」韓国人メジャーリーガーが貫く流儀の裏側
対戦相手の努力を知っているからこその敬意、松井に迫る本塁打には「光栄」
2005年4月21日。本拠地でのアスレチックス戦で、9回に代打としてメジャーデビューを果たした。結果は一塁ゴロ。「デビュー当初はメジャーで長くプレーできるなんて思っていなかった」と話すが、気が付けばメジャー13年目のシーズンを過ごす。
「毎日ユニフォームを着てグラウンドに立てることに心から感謝しているし、その瞬間を無駄にしないように全力でプレーしている。対戦する投手たちが積んできた努力も知っているから、自分はホームランを打った後に大喜びすることもないし、自分の成績次第で気分がアップダウンすることもない。
よきチームメイトとはどういう人物か。監督やコーチ、対戦相手にどう敬意を示すべきか。それを教えてくれたのは、マイナー時代の監督、コーチ、仲間だった。将来的に、自分が子供たちに野球を教える立場になったら、野球そのもの以上に、人間として他人を敬うこと、よきチームメイトであることを伝えていきたい。よき人間であることが、よき野球選手であることにもつながるから」
柔らかな口調で、今ではすっかり流ちょうな英語を話す秋は、どこか達観したような雰囲気を漂わせている。選手としては脂の乗った旬の時期にあるが、時々引退後の人生について妻と話をすることがあるという。
「若くて才能ある選手が出てきて、いつかは自分のポジションを奪う。それは自然な流れだし、受け入れなければならないこと。自分は必要とされなくなる日までは、最善を尽くしてプレーだけ。
メジャーで1打席でもいいから立てればいい。それを目標にしていた自分にとって、今もこうやって毎日プレーできていることは、ただただ感謝しかない。自分が158本塁打で、松井が175本? ワオッ。そんなことになってるなんて知らなかった。驚きだよ。こんなに長いキャリアを送れると思っていなかったから。
自分の野球に対する姿勢や為すべきことは、引退するその日まで何も変わらない。毎日ユニフォームを着てグラウンドに立てることに感謝しながらプレーするだけ。その結果として、松井の成績に近づくことができるなら、それは光栄としか言いようがないね」
1打席のつもりが5400打席を超え、1試合のつもりが1250試合を超えた。メジャーにレギュラーとして定着しても、大型契約を勝ち取っても、等身大の自分を忘れず、地に足をつけたまま。そんな秋の人間性と努力に、野球の神様はしっかりと報いているのだろう。
(佐藤直子 / Naoko Sato)