ベンチながらも笑顔で幕、登板回避の滋賀学園エースが高校野球で学んだこと

最後の夏を前に負傷のエース、山口監督が下した決断とは…

「将来のある子だし、無理はさせられない」。山口達也監督は、登板回避を決断した。だが、棚原もヒジ痛のため投げられず、この夏は宮城滝太、島邊の2人の2年生投手の踏ん張りに賭けるしかなかった。

 相手校の校歌をベンチ前で聞く神村の表情は、最後まで崩れることはなかった。それどころか凛とした表情にも見えた。

「頑張っている仲間を見ていたら、自分が泣くのは…。最後のマウンドに立てなかったのは悔しいですけれど、みんなを信じてここまでやって来られたので」

 いつもと同じようにしっかりとした口調で、こう振り返った。試合前日にはブルペンで30球を投げ、調整もしていた。投げたいという思いは、最後まで持ち続けていた。

 そして最後にこう続けた。

「周りの人の存在に感謝しています。自分は1年生の時から投げさせてもらって、いい思いもしました。でも、春の大会はベンチを外れてスタンドから試合を見て、控えの選手の気持ちも分かったし、ケガをしてから心配してくれる人もたくさんいました。自分がこんな状態になってから、練習後に大阪の病院に連れて行ってもらったり、気に掛けていただいたり…。野球は1人でするスポーツじゃないとあらためて感じました」

 だから、笑って高校野球は終わろうと心から決めていた。涙に暮れる仲間の中で、しっかり前を見つめ続けたエースは、高校野球のユニホームに静かに別れを告げた。

(沢井史 / Fumi Sawai)

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