膝の負傷との戦い、戦力外、異例の営業転身 ドラフト5球団競合左腕の今

現役時代の苦しさは営業マンとしても大きな糧に

 ドラフト5球団競合左腕の営業転身のニュースは大きな話題となり、各メディアで大きく取り上げられた。現役時代には移動日以外に着る機会の少なかったスーツに加えて、ネクタイ、革靴、カバン、名刺入れなどを準備。「スーツはローテーションしながら、買い足しながら、という感じです」。長谷部さんは野球選手として体が大きな方ではなかったが、プロスポーツマンのがっちりとした体格に合うスーツは市販品で買うことができず、オーダーメイドにする必要があるという。

「でも、それはしょうがないので。大変でしたよ。最初の2か月くらいは首がめっちゃ荒れました。慣れていないので、襟でボロボロになるんですよ。動きにくかったし。でも、今は週5でスーツですから。選手の時は毎日が私服で、スーツを着るのは移動日だけ。それが逆転しちゃったので、私服は数えるほどしか残してないです。全部捨てました。スーツだけ増えていって、Yシャツは大量に必要なので増えていって、逆に私服は減っていって……」

 また、エクセルなどは大学時代に学んでいたから使いこなせる、という報道も出ていたが、「いやいや、あれはウソです。全然できないですよ」と笑う。本当にイチからスタートを切ったという。

「『A』を押したら『あ』となるくらいはわかりますよ。でも、パソコンの使い方も分からなかった。コピーの仕方すら分からなかったので。『コントロール+C』とかも知らなかったです(笑)。全部、1個1個教えてもらってるんですけど、まだ仕事は遅いですね。普通の人なら1時間くらいで終わるところを僕は3時間半くらいかかってるので。でも、充実しています。大変なこともありますけど、それはそれで全然、苦ではないです」

 現役時代から明るく、前向きで、社交的。まさに営業向きの性格に見える。ただ、本人は「どうなんですかね。全然わからないですね。相手によって、自分が出せる方と出せない方とか、多少そういうのはあります。けど、そういう方たちにどうやって違う作戦で攻めて行かなくちゃいけないかとか、そういうことは上司の人に聞いたりして、勉強させてもらってます」と言う。第2の人生にかける思いは強い。

 現役時代に苦しさをたくさん味わったことは、営業マンとしても大きな糧となるはず。プロ入り前、北京五輪予選メンバーのアマチュア選手として唯一選出され、大きな期待を背負って楽天に入団した長谷部さん。だが、ルーキーイヤーの開幕前にオープン戦で膝を負傷。プロ生活は常に膝の状態に悩まされた。2012年には手術を決断。日本一に輝いた2013年にはシーズン途中に1軍に復帰し、635日ぶりの登板を果たすと、24試合登板で1勝1敗3セーブ10ホールド、防御率1.83と好成績を残した。ただ、好投が続かなかった。まだ31歳(当時)という年齢だったが、戦力外通告を受けたときには、すぐに次の世界に進む決断を下すことができたという。

プロ野球選手として直面した「分岐点」、営業マンとして感じる“熱”

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