その日限りの独特の雰囲気 流れる空気が異なるドラフト会場の表と裏
米国とは違い、翌年から即戦力となる選手が多くいる日本のドラフト
笑顔やワクワクが溢れるこのスペースからパーテーションを挟んだ隣に位置するのが、メディア関係者が集まる控え室だ。用意されているリポビタンDをグビっと飲み干して、これからやってくる嵐に備えている。担当球団が誰を指名するかによって、予定が大きく変わる。関東圏内の選手を指名すれば、そのまま関係者挨拶を取材するスケジュールが急に発生する可能性もある。パソコンを開いて指名を待ち構える200人以上の記者たちがぎっしりと埋め尽くすその会場は異様な雰囲気に包まれていた。
午後5時、ドラフト本番は静かに幕を開けた。いきなりの7球団競合。抽選の行方をみんなが見守る。そして北海道日本ハムファイターズが指名権を獲得した瞬間にどよめきが一瞬起こる。だが次の瞬間、カタカタとパソコンのキーボードをたたく音も響き渡る。各球団の1位指名が終わり、休憩に入るとメディアの大移動が始まる。12球団の監督がメディアに対し、最初の指名についての感想などを述べる囲み取材が行われるためだ。
そして運営側から各球団の指名選手のプロフィールが綴られた1枚の用紙がメディアに配布される。この用紙には選手のプロフィールだけでなく、在籍高・大学などの連絡先、そして担当スカウトまでが綴られている。記事を書き上げるために必要最低限の情報を球団が提供している。
取材するメディアの間では、「忙しくなるな」と揶揄される者もいるなど笑顔と苦笑いが入り乱れる。1球団の指名、そして抽選の勝ち負けによって多くのメディア関係者の仕事が大きく変わってくる。米国ではシーズン真っ最中の6月にドラフトが3日間行われ、40人の選手を各球団が指名する。即戦力として考えられる選手がほとんどないため、取り上げられ方もそこまで大きくはない。だが日本でドラフトされる選手たちは来シーズンから戦力として計算される者も多くいる。そのため、取材する側も大忙しだ。
ドラフトの表では、応援するチームが誰を指名するのかと、一喜一憂するファンたちの姿がある。一方、その裏では担当する球団の指名によって仕事が大きく変わり、その対応に追われる関係者が数多くいる。パーテーション一枚を挟んだドラフト会場の表と裏、それぞれ異なる空気を感じた、そんな一日となった。
(「パ・リーグ インサイト」新川諒)
(記事提供:パ・リーグ インサイト)