道具不足、球場不足…課題山積みも急成長続けるパキスタン野球の現在
日本戦を前に緊張する選手たちにコーチが送ったメッセージとは…
「次に対戦する日本は強い。それは君たちもわかっていることだと思うが、決して萎縮してはいけない。日本に俺たちのファイティングスピリットを見せてやろうじゃないか。最後まで諦めずにプレーしよう」
この言葉を聞いた選手たちは奮起し、暗闇の中で黙々とバットを振った。そして迎えた試合当日、初回に本塁打で2点を失った直後、パキスタンは相手失策をきっかけに2死二、三塁のチャンスを作った。すると、この日は「5番・中堅」としてスタメン出場した左腕エースのアミン・ジーシャンが適時打を放ち、あの日本から得点を挙げた。その直後、パキスタンはまるで優勝したかのような喜び方で勢いに乗った。エンタイトルツーベースでもう1点を加えたものの、試合は2-15の5回コールドで敗れた。それでも日本から2得点を挙げたことは、パキスタンにとって歴史的な出来事となった。
敗れたが選手たちの顔はにこやかだった。日本から挙げた2点は、選手たちの大きな自信となり大会最終日の香港戦では、前日に打点を挙げたジーシャンが先発マウンドに上がり、1安打10奪三振で完封。チームは10-0のコールドで大会初勝利を飾った。最終成績は1勝4敗で、チームは敢闘賞、一塁を守っていたアブドル・マリクは大会オールスターに選出された。
大会終了後、チームの団長を務めたシャー氏は日本に残り、パキスタン野球を支援する企業や団体を募っているという。シャー氏によれば野球連盟主導でユニフォームやキャップを手配しているものの、スポンサーがおらず経済的に苦しいという。その影響もあって道具調達が思い通りに進んでいないため、寄付に頼るしかないそうだ。
課題が山積みでも、U15アジア選手権で日本から得点を挙げたのはパキスタンしかいない。粗削りながらも運動能力の高さをみせた選手たちは、まだまだ伸びる可能性を秘めている。そのために日本をはじめ、他国の協力は不可欠だ。シャー氏は今後の展望について次のように話している。
「今、日本のチームに推薦したい選手が10人いる。彼らが日本の学校やチームに入って経験を積めれば、帰国後に得たものを還元できると思う。そのために、私をはじめパキスタン野球連盟はどんなことでも挑戦する。ぜひ日本と共に野球発展を目指したい」
パキスタンは来たる12月8日から10日までドバイでインドとの交流試合を控えている。これはドバイでの野球普及を目指してのものだ。今後もパキスタンは自国の野球発展と同時に、南アジアのリーダーとして近隣諸国をけん引していく。
(苅田俊秀 / Toshihide Karita)