日本の4番が誕生した「伝説の2週間」 筒香が批判を覚悟し名コーチと歩んだ軌跡

「周囲の目を気にしないでいく。そう決めた瞬間からブレイクは約束されている」

 まず、大村コーチが取りかかったのは「聞く」ことだった。

「筒香がどうしたいのか。どうなりたいのか。今までの人生で何をしてきたのか。どういう人に影響を与えられてきたのか。その時どう感じたのか。プロに入って4年間はどうだったのか…。そういったことを懇切丁寧に聞きましたね。

 詳細は2人だけの秘密だから話せないけど(笑)、僕から言えるのは、彼は迷っていた、ということ。10年に1人の逸材だって言われて、いろいろな人が声を掛けてくれる。有難いことだけど、弱冠20歳そこそこの若者は混乱していた。周りから言われたことを、そうしなきゃいけないんだって思っていたから。そうじゃない。自分の求めるものに向かって突き進めばいい。いろんな人がいろんなことを言うけど、自分の求めるものは何か。自分の野球人生だからね、っていう話をしましたね」

 同時に、評価が下がってきた「今」こそがチャンスだとハッパも掛けた。

「期待されてプロに入っても、消えていく選手はいっぱいいる。お前は今、その入り口に立っているよって言いました。でも、だからこそチャンスだ、とも言いました。本当に自分のスタイルを貫いて、周囲の目を気にしないでいく。そう決めた瞬間からブレイクは約束されているってね」

 筒香が目指すもの、それは「高確率で、広角に打てる」打撃だった。だが、周囲から掛かる“和製大砲”の期待は大きく、届くアドバイスは軒並み、ライト方向へホームランを打つためのものだった。「僕は違うと思うんです」。筒香はそう言ったという。

「打点を稼ぎたい、とも言ってましたね。点を入れてチームの勝利に貢献したいって。点を取るには、ホームランでもヒットでも犠牲フライでもフォアボールでもいい。状況に応じたバッティングを身につける。それができる素材だと思う、と伝えたら、『まさに、それがやりたかったことです』と。

 だったら、全打席で貢献することを目指そうって言いました。1打席も無駄な打席はない。結果はゴロでもファウルで粘り続ければ、それも貢献。100打席立ってホームランを30発打つより、100打席すべてでチームのために貢献する方が難しいですから。

 打つ方向は、状況や対戦投手によって変わるもの。ホームランはライトにだけ打つものじゃない。スタンドはレフトからライトまであるんだから、どこに打ったっていい。技術的なことを言うと、レフトに力強い打球を飛ばせるスイング軌道があると、ライトにも打球は飛ばせるんですよ。可能性がすごく広がる。そんな話をしましたね」

「元々持っている才能や技術を、どうやって解放するか」

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