メジャーでも唯一無二のサブマリンへ パドレス牧田の揺るぎなき信念
努力と創意工夫に裏打ちされた揺るぎなき信念
自らを“唯一無二の存在”だと言い切れる。その揺るぎなき信念こそ、牧田和久が成功してきた所以であり、最大の魅力と言えるだろう。もちろん、それだけの自信を確立するためには、相応の努力と創意工夫をしたという裏付けにあるからに他ならない。タイミングを同じくしてメジャーに移籍する大谷翔平投手の日本人最速165キロと比べても明らかな通り、牧田の直球は球速130キロ前後(最速137キロ)と、速くはない。だが、だからこそ変化球を織り交ぜ、緩急をいかに上手く使ってタイミングを外すか。また、それだけにとどまらず、テンポやリズム、さらには捕手から出されるサインへの反応など、相手打者の心理を揺さぶるために細かな要素も最大限駆使し、駆け引きに勝つ方法を常に考え続けてきた。
そして、勝ち続けてきた。牧田は言う。
「みなさんには、簡単に抑えているように見えると思いますが、投げている僕にしたら、必死なんです」
簡単に3者凡退に打ち取り、涼しい顔でマウンドを降りる姿は、西武ファンにはおなじみだ。時には、わずか1球でその日の役割を果たすこともある。それでも、その1球1球には、全身全霊の思考と熟練の投球術が込められている。その上で、結果を出してきたというプライドがあるからこそ、誰よりも己を強く信じられるのだ。
先発、中継ぎ、抑え、シーズン中の配置転換、調子の良い時、悪い時……いついかなる時でも、牧田の言葉は7年間、一貫して変わらなかった。
「ただ自分は、マウンドで自分のピッチングをしているだけ。大事なのは、自分がどれだけ自分の球を投げられるか。先発、中継ぎ、抑え、どこだろうが、やるべきことは変わらない。自分の持っているもの以上の力なんて出せないですから」
そして、パドレス牧田となって思い描く自分像も決して変わることはない。「あくまでも自分のプレースタイルは変えずにやりたい。自分の持っている以上のものは出せないと思うので、持っているものを最大限出していければと思います」。
「アンダースローじゃなかったら、たぶん自分はここにはいない」と胸を張れる希少な武器を引っ提げ、間もなく渡米する。現地メディアではリリーバーとしての起用が報じられる中、これまで具体的な目標は掲げてこなかった牧田が、「60試合、70試合までいけたら十分だと思いますが、数多く投げられたら」と珍しく数字を口にした。「全くわからないことが多い」という言葉も生活も違う新たな環境に戸惑うことは覚悟の上。その中でこれまで貫いてきた常套句が通用するかが、成功を量る1つのバロメーターとなるのではないだろうか。
「どこで投げようが、自分のピッチングをするだけですから」
サンディエゴからも、淡々とした牧田節が聞けることを楽しみにしている。
(上岡真里江 / Marie Kamioka)