“小よく大を制す”、データ野球の膳所と京大の共通点 アマ球界の名将が解説
“小よく大を制す”、27個のアウトをどう奪うか
球春到来。第90回選抜高校野球大会が24日、大会2日目を終えた。記念大会となった今大会は過去最多タイの36校が参加。第3試合では日本航空石川(石川)が10-0で21世紀枠の膳所(滋賀)を下した。沖縄・興南高校で春夏通算6度の甲子園出場を果たし、京都大学などでも監督を務めた比屋根吉信氏(66)に勝負の明暗を分けたポイントを聞いた。
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21世紀枠の膳所は極端なポジショニングを見せ、数々のヒットを凡打に変えていました。昨年の甲子園メンバーが9人残り、昨秋の明治神宮大会にも出場した日本航空石川相手に序盤は互角の戦いを演じたのは素晴らしかったです。初回の2死満塁であと1本出ていれば、また違った展開になっていたでしょう。また3、6回と先頭打者を出しながら送りバントを失敗し、得点圏に走者を進めなかったことが悔やまれます。
この試合を見て、京都大学で監督を務めていたことをふと思い出しました。あれは2010年。日本で行われた世界大学野球選手権大会で優勝したキューバ代表と試合をする機会がありました。当時の代表にはデスパイネ(現ソフトバンク)ら強打者が揃っていて、普通にやれば絶対に勝てない状況でした。
澤村拓一投手(現巨人)がエースの中央大学、斎藤佑樹投手(現日本ハム)、大石達也投手(現西武)らの早稲田大学もキューバと練習試合をやりましたが、中央大学はコールド負けするほどキューバは強者だった。「小よく大を制す」ではないですが、どうすれば「負けない野球」をすることができるかを考えました。
そこで私は今日の膳所ほどではないですが、外野をフェンスいっぱいに下げ、内野も芝の切れ目まで下げるポジショニングを指示しました。1ヒットは構わない、二塁打をシングルに、三塁打を二塁打にと、少しでもホームに近づけないように。野球は27個のアウトをどうやって奪うかです。結果的に8失点で負けましたが、キューバのエドゥアルド監督は「ここのチームが一番、強かった」と話してくれたのを覚えています。
膳所は守りでデータを駆使した野球を見せてくれましたが、夏への課題を挙げるとすれば打撃面。今日の試合でフライアウトは15個を記録しました。得点圏での場面でゴロを転がすことができれば、相手に与えるプレッシャーは変わってきます。バントのミスもあり、そのあたりを改善すれば得点力も上がってくると思います。
そして、エースの手塚君は長身から伸びのある直球を投げていました。ただ、後半は少しスタミナ面に課題を残したので、下半身を鍛え抜けば夏にはさらに成長した姿を見せてくれると期待しています。
〇比屋根吉信(ひやね・よしのぶ)
1951年9月19日、兵庫県尼崎市出身。66歳。報徳学園高から大阪体育大に進学。卒業後は西濃運輸で日本選手権にも出場。1976年に沖縄・興南高の監督に就任。仲田幸司、デニー友利ら多くのプロ野球選手を輩出。監督生活10年間で春夏通算6度、甲子園に導き1980年の選手権大会ではベスト8入りするなど同校を強豪校に作り上げた。その後は社会人野球・阿部企業、熊本・有明高の監督を務める。2010年から12年まで関西学生野球リーグの京都大学の監督を務め、田中英祐(元ロッテ)を育てた。
(Full-Count編集部)