大谷翔平とベーブ・ルースと国歌斉唱と――大谷で知るメジャーの意外な史実

ルースの2桁勝利&2桁本塁打

 さて大谷が呼び起こすのは、メジャー史上最高のビッグネーム、ベーブ・ルースである。メジャーでこれまで2桁勝利&2桁本塁打を達成したのは、13勝&11本塁打だった1918年のレッドソックスのルースのみ。大谷はそれ以来、ちょうど100年ぶりの偉業に挑んでいる。

 ルースと言えば忘れられた名前ではない。ただ、われわれが知っているのは1920年のヤンキース移籍後、打撃に専念するようになってからのことである。実際、予告本塁打や病気の子供に約束した本塁打など、有名な「神話」はたいがいヤンキース時代のもので、レッドソックス在籍時の投打二刀流の話はあまり語られることがないように思う。

 1918年は第1次世界大戦が終わった年である。同年11月に終わったのだった。米国は前年1917年に参戦し、メジャーリーガーも戦場に駆り出された。1918年のシーズンは短縮され、その影響でワールドシリーズは9月に開催された。対戦したのはエースのルースを擁するレッドソックスとカブス。レッドソックスが4勝2敗で優勝するが、この後2004年まで覇権から遠ざかることになる。

 シカゴで行われたこのシリーズの第1戦で、ルースは1-0で完封勝ちを収めている。

 実はこの試合で、今につながる伝統の行事が始まった。7回裏を迎える際、軍楽隊が入場して「星条旗(The Star-Spangled Banner)」を演奏し、それに合わせて観客が歌った。国歌に制定されるのは1931年で、当時は愛国歌だったのだが、第1次世界大戦中の国威発揚の意味があったようだ。これ以前にもこの歌が演奏されることがなかったわけではないとのことだが、定着したのはこの時から。この時をきっかけとして、この歌がメジャーリーグのあらゆる試合で斉唱されるようになったのだという。

 試合前の国歌斉唱の起源は、2桁勝利&2桁本塁打を成し遂げた年のワールドシリーズでルースが完封勝利を挙げた試合だったのだ。いつ頃からなにゆえメジャーの試合前に国歌斉唱がなされるようになったのだろうかと疑問に思うことがしばしばあったのだが、大谷のお陰で史実を知ることができた。

(樋口浩一 / Hirokazu Higuchi)

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