「自分の好きなようにやれよ」―牧田和久の挑戦に光を差した野茂英雄氏の一言
「好きな野球をできているのが非常に充実というか、自分の人生においてプラス」
「3Aで成績は出して当たり前。打者に『やっぱり打てないや』とか、『こいつからどうやって点を取ればいいんだ?』って思わせるレベルにならないと、上には上がれないと思います。スポーツは結果がすべて。もちろん内容も大事ですけど、最終的には結果がゼロということがすべてだと思う。
ただ、今は抑えることで精一杯。日本とはキャッチャーの構え方も違うし配球も違う中で、自分がクビを振ってピッチングを組み立てないといけないんですけど、自分自身で精一杯になってしまっていることが多い。投げている中で打者や周りを見る余裕、ドッシリさがないんですよね」
誰しも初めて足を踏み入れる舞台では、新しい環境に慣れて自分らしさを発揮できるまでに、多少なりとも時間を要する。それは侍ジャパン入りし、WBCという世界の舞台を経験した牧田でも変わらない。ただ、20歳そこそこの若手と違うのは、余裕のない自分を客観的に見つめ、受け入れ、前に進む原動力に変えるだけの懐の深さがあることだろう。
「もちろん、日本にいれば不自由なく、こういう経験もしなかったかもしれない。だけど、世界へ一歩踏み出して、違う世界や文化を学びながら好きな野球をできているのが非常に充実というか、自分の人生においてプラスになっているなと思いますね」
そう語る顔に浮かぶのは、決して強がる表情ではなく、与えられたチャレンジに意気揚々と立ち向かう前向きな表情だ。
幸い、3Aエルパソには中日から派遣されている元メジャー投手の大塚晶文コーチがいた。また先日は、日本人投手に向けてメジャーの門戸を大きく開いた野茂英雄氏が巡回コーチとして3Aを訪れた。パドレスで特別補佐を務める野茂氏は、牧田にこんな声を掛けたという。
「野茂さんに『もう少し自分の好きなようにやれよ』って言われました。マウンドに上がっていても、自分で投げたい球を投げろよ。キャッチャー任せじゃなくて、自分で試したいものを試せばいいし、その中で勉強していくのも1つ。本当に自分のやりたいことをやれ。周りに気を遣わないで、やりたいようにやっていけ。そう言っていただいたんです。メジャーで活躍なさった方に、いいアドバイスを的確にいただきましたね」
シンプルなアドバイスは、悩ませていた牧田の頭に一筋の光を差し込んだようだ。6月24日には再びメジャーに昇格した。必死の中にも自分らしさを忘れずに。チャレンジを乗り越えた先には、また新たな世界が広がって見えるはずだ。
(佐藤直子 / Naoko Sato)