選手の命に関わるにもかかわらず…判断が極めて難しい「脳震盪」の怖さ

本当の意味での「アスリートファースト」とは何か

 スミスが演じたのはこの時に検死などをした医師のベネット・オマル。この映画以降、フットボール界のみならず、アイスホッケーやプロレスなどでも同様に脳震盪をめぐる紛争が勃発している。

 そして世間を大きく騒がせたのはフィギュアスケートの羽生結弦。羽生は14年11月GPシリーズファイナルでの練習中、中国選手と接触。そのまま大会には出場し2位に入ったが、その際、「脳震盪を起こしていたのでは?」と問題視された。

 この時のことについて朝本先生はこう語る。

「あれは脳震盪ではありません。帯同していたアメリカのチームドクターがしっかりと判断を下して出場した。あの判断は決して間違っていない。それよりも問題なのはあの場に日本の医師が一人も帯同していなかったということです」

「また、あれを映像などで見て騒ぎ始めた日本の関係者が良くない。あの場でしっかりと診察し、正しい判断が出て出場した。それなのにそこにいない、地球の裏側での映像を見て、あれは脳震盪だ、と騒いだ。これはあってはならないタブーです」

 ここでの例を出すまでもなく、日本のスポーツ界は選手を守ることに関して未だに稚拙であると言わざるをえない。昨今「アスリートファースト」という言葉を耳にする。しかし、この中にはハード面などの活動環境のみでなく、身体や心をケアすることも含まれなければならない。

 1998年長野五輪の際、IOC役員が日本視察に訪れた際に尋ねた。「君たちはACLSチームを持っているのか?」。これに対してのJOC幹部の対応は「何ですかそれは?」という笑うに笑えないものだった。ちなみにACLSとは現在、当たり前のように各競技会場などに設置されているAED装置を用いての一次救命措置(いわゆるBLS)の進んだようなものである。

 変化の兆しはあるとはいえ、未だに他国に遅れていると言わざるをえない。例えば、隣国・韓国では18年平昌五輪において最高医療責任者を務めたイ・ヒョンヒ医師のもと3400人体制でメディカルチームを結成した。長野以降、イ・ヒョンヒ医師はすべての五輪に視察勉強のためボランティアで参加していたという。

アスリートを救う呼気による検査 研究段階ながら大きな成果

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