日産休部、パナソニック退社…都市対抗野球に戻ってきたJR東海監督の思い

「社会人野球は大人の世界、自己責任」

 社会人チームの監督を務めていた時より、収入は減った。それでも「お金だと思っていない」と言う。

「兵庫の公立高校のチームは、2時間で5000円でした。交通費が往復で1500円かかるので、実質手取りは3500円。でもそのお金を、部員15人の部費からやりくりしてもらっていた。『このお金は重いなぁ』と思っていました」

 それまで社会人を指導していたため、学生に自分の考えを受け入れてもらえるか不安があったというが、子供たちと心を通わせながら指導に当たった。

「『この親父と会話してくれるかな』と思いながら接しました。キャンプで挫折して練習に来なくなった子に『待っているぞ』と声をかけ続けていたら戻って来てくれたり、今でも手紙をくれる子がいたり。嬉しいですね」

そんな久保氏に、JR東海から声がかかり、昨年12月に監督に就任。5年振りに社会人野球の世界に復帰した。都市対抗予選まで短い期間だったが、激戦の東海地区予選を勝ち抜き、第5代表で本大会出場の切符を掴んだ。本大会では惜しくも準々決勝で敗退したが、自身の古巣でもある強豪パナソニック、そして東海地区第一代表のトヨタ自動車を破る健闘を見せた。

「選手たちに話していることは『自分たちで考えなさい』ということです。社会人野球は大人の世界、自己責任です。チームの決めごとと自分たちのやっていることを照らし合わせる。それを選手たちが実践してくれた結果です」

 再び東京ドームのグラウンドに立ち「こういう世界に戻らせてもらえたんですね」と感慨深く話す久保氏。日産自動車の休部が決定したとき、どうすることもできなかった当時の無念を胸に秘め、成し遂げることができなかった都市対抗優勝を目指し、新たなチームで手腕を発揮する。

(篠崎有理枝 / Yurie Shinozaki)

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