“本塁打アーティスト”の魅力に迫る 西武・中村が持つ「本塁打を打てる感覚」
黙々とバットを振り、感覚を取り戻したファームでの日々
中村剛也の本塁打は美しい。
放物線を描き時間をかけてスタンドへ届く弾道。
その瞬間、時間が止まったようにすら感じさせてくれる。
球界を代表する長距離打者がさらに大きくなって帰ってきた。
―――
5月16日。リーグ首位をひた走る西武1軍は、東京ドームでの日本ハムとのホーム試合を控えていた。空調の効いた快適な屋内球場、チーム状態もあるのか気持ち良さそうに誰もがボールを追いかけていた。同じ時間、中村剛也は横浜との2軍戦のため、横須賀スタジアムにいた。梅雨の空気感もあるが夏のような陽射しが照りつける海の近くの2軍施設。年齢も一回り違う若手選手に混じって、額から大粒の汗を流しながら懸命にバットを振っていた。
チーム不動の4番打者。特にアジア制覇を成し遂げた08年には本塁打を量産。「おかわりくん」の愛称が広く定着した。プロ入り以来6度の本塁打王、3度の打点王獲得は素晴らしい実績である。
しかし、ここ数年は故障もあった。その間にチームの顔ぶれも大きく変化した。10年ぶりのリーグ制覇を目指すチームの売りは「山賊打線」とも呼ばれる爆発的な攻撃力。しかし、中心の4番打者には、似たような体型から打ちまくる山川穂高が座っている。
「まぁ、2軍で調整しているのは正直、悔しいですよ。でも自分の調子云々もそうだけど、実際に結果を出していない。4番とかではなく、プロ選手として結果を出していかないと、まずは試合にすら出られないですからね」
あれから数か月が経ち、中村の周囲を取り巻く環境が一変している。持ち前の長打力を生かした打棒が戻ってきた。8月4日から10日までは6試合連続本塁打を記録。王貞治氏(当時巨人)、ランディ・バース氏(当時阪神)の持つ7試合連続本塁打のNPB記録まであと一歩と迫った。
「本塁打は打ちたい。いつまでも中村の本塁打を見にきた、と言ってほしいです」