大人気だった巨人台湾春季キャンプ 台中は「大リーグボール」誕生の舞台

旧台中駅の外観【写真:広尾晃】
旧台中駅の外観【写真:広尾晃】

台湾キャンプ中、星飛雄馬が金田正一氏から魔球のアドバイス受ける

 巨人は当時、セ・リーグ、日本シリーズで3連覇中。人気絶頂であり、台湾の新聞、テレビも連日大きく報道した。選手たちは練習が終わると連日のように歓迎会に招待された。王貞治はVIP待遇で、台湾政府の歓待を受けた。温暖な気候の中で、選手の仕上がりは速かったようだ。

 今、台中野球場は台湾体育大学の構内にあるが、最近では2014年の第1回 IBAF 21Uワールドカップの会場にも使われている。ただし侍ジャパンは使用していない。

 実はこの台湾キャンプは、野球漫画、アニメ史上でも重要な意味を持っている。この1968年からアニメ「巨人の星」の放映が始まり、野球少年に爆発的な人気を博した。

「巨人の星」は、現実のプロ野球の動きを1年遅れで伝えていたが、1969年6月の放送で、台湾キャンプの最中に、金田正一に「変化球を教えてくれ」と言った星飛雄馬に「大リーグボールを編み出せ」とアドバイスをしたことになっている。金田はこのキャンプで怪我をして一足早く日本に引き揚げているが、星飛雄馬は台中駅まで見送っている。

 このシーンでは、台中駅が描かれているが、実際の駅を忠実に再現している。原作者梶原一騎、漫画を担当した川崎のぼるが、綿密に取材をしていたことがわかる。

 記念すべき「大リーグボール1号」は、台中で生まれたと言ってもいいのだ。

 台中駅は日本統治時代の1917年に完成。当時の姿のまま2015年まで使われていたが、翌年から近代的な駅が完成し、今は国定古跡として保存されている。

 タクシーで台中野球場付近を通ると、年配の運転手が「ここで王貞治が野球をしたんだ」と誇らしげに話すことがある。すでに50年の歳月が経ったが、「台湾にやってきた巨人軍」は、現地の人々の記憶に深く刻まれている。

(広尾晃 / Koh Hiroo)

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