イチロー、無駄ではなかった“空白の9か月” 復帰初安打で見えたものとは
実戦復帰した率直な思い「この緊張感は今日だけのものと思う」
誘発された想念をぶつけたのは咋夏、ダイヤモンドバックスの遠征地チェイスフィールドのロッカーだった。
イチローの表情は微かに強張り、こう切り返してきた。
「なんのためにですか!?」
その一言に、受け太刀になるしかなかった。
そう、イチローは来るボールを打ち続ける単純な作業をただひたすらに繰り返し、本来の感覚を錆びつかせることなく維持し続けてきたのである。そして“鍛錬”がどんな答えを出せるのか……。恐らく、イチローの胸奥にはずっとそんな不安が付きまとっていたはずだ。
298日ぶりに実戦復帰した率直な思いをイチローはこう紡いでいる。
「最初に(日本から)来た時とも違う。(今まで経験した)どれとも違う初めての緊張感だと思う。この緊張感は今日だけのものと思う」
バットをへし折られながらも野手のいない所に落とせた1本は「空白の9か月」を乗り越えた強靭な意志と錆び付かせなかった技術の結実である。「今日だけの緊張感」を解きほぐしたイチローはこう結んだ――。
「次はどうゲームの感覚を取り戻すかというステップですね」
(木崎英夫 / Hideo Kizaki)