「イチローが勇気を与えてくれた」―松中信彦氏が独白、第1回WBCのエピソード

WBCではチームメイトだったイチロー(左)と松中氏【写真:Getty Images】
WBCではチームメイトだったイチロー(左)と松中氏【写真:Getty Images】

平成唯一の3冠王・松中氏とイチローは1973年生まれの同級生

 21日のアスレチックス戦後に28年間の現役生活に幕を下ろし、引退することを表明したマリナーズのイチロー外野手。日米通算4367安打を放ち、偉大な記録を次々と打ち立ててきたレジェンドの現役引退の知らせは日米のみならず、世界中に駆け巡って衝撃を与えた。

 イチローと同じ1973年生まれで、初代世界王者に輝いた第1回WBCでチームメートだった元ソフトバンクの松中信彦氏もイチロー引退のニュースに驚いた1人だった。「Full-Count」の単独インタビューに応じ、平成唯一の3冠王が共に世界一を目指して激戦を戦った盟友の引退を惜しんだ。

 引退会見もテレビで見たという松中氏。ウィットに富み、時にジョーク、時に突っ込み、そして深みのあるコメントと“イチロー節”が存分に感じられた会見で、同氏は「イチローらしい感じはしました」と語り「1番大事なのは悔いがないっていうかね、そういうところが選手としては1番大事だと思うので。数々の大記録を作ってきた僕たち同級生のスーパースターなので、その雄姿を、プレーを見られないのは凄く残念ですけど、ただただお疲れさまでしたと言いたいですね」と、28年間の現役生活に対して労いの言葉を送った。

 2006年3月に行われた第1回WBC。王貞治監督(現ソフトバンク球団会長)の下でイチローと松中氏は世界一を目指して戦った。第2ラウンド初戦のアメリカ戦。イチローが初回に放った先頭打者本塁打が他の選手たちにとてつもない勇気を与えたと松中氏は言う。「どうしてもテレビの向こうの選手たちというか、スーパースター軍団だったので、対戦するにあたってこうちょっと不安さとか、どうなんだろうという中で、先頭打者で本塁打を打ってくれて勇気を与えてくれた、勢いをつけてくれたというところで、凄くあの本塁打はありがたかった。日本人やれるぞというのを示してくれた」。このアメリカ戦には惜しくも敗れたものの、日本の選手たちがメジャーリーガーを相手にも戦える手応えを掴んだ試合だったという。

 さらに松中氏は、この第1回大会中のエピソードを明かす。「対戦する投手でメジャーリーグのピッチャーが出てきたら、必ずその球種、軌道を凄く教えてくれていた。ビデオだけじゃ分からない、打席に立ってみないと分からないんですけど、イチローからどういう軌道が来る、このピッチャーはこの球が得意だと聞いていたからボールが絞りやすかった。一発勝負の中で、それはありがたかった。全て頭に入っていて、初めての対戦だから、それを僕らに教えてくれた。変化の角度だったり、得意球だったり」。

 さらに、イチローはチーム全体に対しても、積極的に自信を持てるような言葉をかけ続けていたという。同氏は「どうしても自分たちはメジャーリーガーとなると凄いというイメージしかないけど、そこでイチローは『いやそれは違う』と。『日本人の方が能力は高いし、自信を持ってやればいい』『絶対大丈夫だ』と言っていた。そういうのも含めて言葉だけじゃなくて結果で示してくれた。言葉の重みを感じました。イチローだからこそ響くところもあるし、それを行動で示してくれるので余計に信用する。イチローが引っ張っていってくれて、付いていけば世界一に必ずなれるという雰囲気はありましたね」と振り返っていた。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)

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