松井、由伸の上を行く― 元巨人スコアラーが分析した400号・阿部慎之助の打撃技術
松井秀喜氏も「慎之助すげー!」、入団して間もない阿部のことを見て驚嘆したという打撃
400本の中で印象に残っているのは特定の1本ではなく、2004年4月に月間16本塁打という驚異的な数字を残した期間だった。
「あの時は彼の持っているものが全部出ましたね。打てると思ったものを全部振って、一発で仕留めていました。打ち損じはなし。すごいと思いました。先ほどのカーブの話ではないですが、積極性がありましたね。先輩の高橋由伸さんとはまた違う積極性でした。私の中では見てきた打者で一番の能力だと思います。松井秀喜さんに聞いてもそう言うと思いますよ。『慎之助、すげー』と言っていましたから」
これまでも多くの巨人の偉大な打者を見てきたが、それでも阿部が「一番の能力を持つ」と挙げた。
「松井選手や高橋選手より、ボールをアジャストする能力、内外角のさばき方は上だと思います。松井選手や高橋選手より、阿部選手は厳しいところをつかれても、払い打ちができました。本当に能力的には一番高いです」
これまで見てきてフォームの変化などはあったが、どのように映っていたのだろうか。
「正直、いろいろと変わっていてよくわかりません(笑)。でも、モノマネが好きで、一打席ごとに違うこともありました。ただ、打者というのは面白いもので、フォームを変えると、いきなり打てることがあるんです。それが2日目になると打てなくなる、元に戻る。毎回、変える時は毎回打てることもありましたね」
例えば、高橋由伸氏のように右足を高く上げたり、坂本勇人選手のように左足を一回引きながら上げて見たり……。
「バッティングの感覚が『何か違うな』と感じていたら、モノマネで良い感覚を見つけていましたね。それができるからすごい。本当に柔軟で器用です」
打てる要素は“頭脳的”な部分もあった。
「自分も捕手なのに、相手の捕手と配球の読み合いをしないんです。例えば相手の捕手がヤクルトの古田選手のように球界屈指の選手だった場合は、打席に入ると考えてしまう。『初球にスライダーが来たから、次は直球かな』とか、と思っていると、あっという間に追い込まれてしまいます。後手を踏むことが多かったですが、阿部選手は追い込まれるまで何も考えず、自分対ピッチャー、打てる球をどんどん行くという思考でしたね。改めて、すごい打者と思います。400号おめでとうございます。まだまだ打ち続けてください」
プロフィール
三井康浩(みつい・やすひろ)1961年1月19日、島根県出身。出雲西高から78年ドラフト外で巨人に入団。85年に引退。86年に巨人2軍サブマネジャーを務め、87年にスコアラーに転身。02年にチーフスコアラー。08年から査定を担当。その後、編成統括ディレクターとしてスカウティングや外国人獲得なども行った。2009年にはWBC日本代表のスコアラーも務めた。