吉田輝星の881球を受け続けた昨夏準V捕手の今 クラブチームで夢の続きを

昨夏の甲子園で準優勝した金足農の捕手で、現在、秋田県職員となった菊地亮太さん【写真・編集部】
昨夏の甲子園で準優勝した金足農の捕手で、現在、秋田県職員となった菊地亮太さん【写真・編集部】

金足農で正捕手だった菊地亮太さん 高校時代に測量補士の資格を取り、土木関係の仕事が目標だった

“金農旋風”に沸いた甲子園から1年。昨季の準優勝メンバーだった捕手・菊地亮太さんは新たな夢に向かって、仕事と野球に打ち込んでいる。吉田輝星(現・日本ハム)とのバッテリーを組んだ夏を振り返りながら、今、そしてこれからの思いを聞いた。

 目の前に広げた図面に、思考を巡らせている。菊地さんは金足農を卒業して、目標だった農業土木関連の業務を行う秋田県の職員となった。農業生産の基盤となる安定した農業用水を確保するため、古くなった用排水路など農業水利施設の整備を担当している。リードとまではいかないが、よりよい方法を導きだしている。試行錯誤しながら、県民の喜びのため、汗を流す。

「高校2年くらいの時に進路を考えるようになって、スケールの大きな仕事に就きたいと考えていました。在学中に勉強して(測量士補の)資格も取ったので、担任の先生から『県の職員の仕事もできるぞ』と言われたので目指しました」

 環境土木科に在籍し、吉田らとともに文武両道で夏の甲子園準Vを果たした。吉田はプロへ。菊地は公務員となった。

 今年の6月12日。かつてバッテリーを組んでいた男は札幌ドームのマウンドに立っていた。仲間と一緒にデビュー戦初勝利を見届けた。

「広島打線はめっちゃ、打ちますよね。横から見ていたので(投球のコースの)高さはわからなかったんですが、ひざ元にいい球が決まっていました。審判も厳しくてボールと判定されたのに、そこに何球も続けて投げていました。捕手の方と話しあっていたとは思いますが、あそこにずっと投げられる(コントロールの)安定と勇気はすごいな、と思いました」

 菊地さんならではの、感想だった。

 同級生の吉田をはじめ、決勝戦で対戦した大阪桐蔭の根尾(中日)、藤原(ロッテ)ら同学年の選手の動向はニュースで目に入る。

「(オープン戦など)今、若手は試されている時期だから、どうやって結果を残していくのかな、と。試合はあまり見ないんですけどね……」

 吉田の勝利の時のように、結果よりも、そのプロセスを見るのが菊地さんの観戦のポイントのようだ。

 昨夏の甲子園の映像を見たり、振り返ったりすることは、あまりしてこなかった。自分のプレーを見返すのが恥ずかしいから、というのが理由。ただ、甲子園でのある写真を見て「キレイだな」と思うことはあった。

「(準決勝の)日大三高に勝って、みんなで挨拶している時の写真なんです。みんなで映っているのがうれしいんですよね」

 絆でつかんだ勝利だった。

 改めて思い出しても、大阪桐蔭との決勝戦は“ギリギリ”の戦いだった。

「本当にスキがなかったですね。1人1人の役割がはっきりしていました。その役割も場面によって変わっていました。同じことをしている選手がいなかったので、リードしていても、戸惑いました」

 前の打席で長打を放った選手が、進塁打を意識した打席をしたと思えば、今度は長打を狙っている。狙い球もなかなか読みづらかった。今まで感じたことのない恐ろしさだった。5回までに12失点。甲子園の準決勝まで5試合を投げ抜いてきた吉田がつかまってしまった。責任を感じていた。

何度も切れたキャッチャーミットの紐 今もクラブチームで捕手としてプレー

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