甲子園が持つ“不思議な力” 早実元4番・野村大樹が感じた「音が聞こえない」世界

一度だけの甲子園出場、それでも強烈だった甲子園の“力”

 野村にとって一度だけの甲子園出場。それでも、その時の感覚は強烈、鮮烈だった。

 あの時から2年が経過した。ソフトバンクに入団し、プロ野球選手として歩みを進めている野村は甲子園の持つ“不思議な力”について、ハッキリと覚えていた。「自分にとっては持っている力以上のものが出る場所でしたね。今まで感じたことのない集中力が出てきた場所でした」。今でも忘れない感覚。今までに感じたことのない、そう、“ゾーン”に入ったような感覚だったという。

 初戦の明徳義塾戦。野村は4番に入り、清宮の後を打った。4打数2安打1打点。9回には土壇場で同点に追いつく四球を選んだ。続く東海大福岡戦でも野村は5打数3安打1打点と活躍。チームは8-11で惜敗したものの、野村はバットで十分にその存在感を示した。

 特に、2回戦は大の苦手だったというサイドスローの安田投手を苦にすることなく攻略できた。「凄くサイドスローの投手が苦手だったんです。安田投手と当たって、嫌だなと思っていたんですけど、全く苦になりませんでした。集中していたのか、何も音が聞こえなかったですね」。大声援が飛び交う甲子園でプレーしていながら、音を感じることなくプレーしていたのだという。

 甲子園という場所について野村は「自分の持っている以上のものを出せる場所だと思います」と、その力を語る。その一方で怖さも目の当たりにしている。「今までめちゃくちゃ打っていた打者が急に打てなくなったりもする。緊張し過ぎると、固くなって自分の力以上のものが出なくなってしまう場所でもある。どっちか両極端に分かれると思います」。

 時として“女神”が微笑み、実力以上のものを引き出してくれるのが甲子園であり、時として“魔物”が姿を表し、全く力を発揮できなくなるのも甲子園なのだろう。6日から始まる、新たな夏の歴史。甲子園の“女神”に見初められ、信じられないような力を発揮する星は誰になるのだろうか。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)

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