異常事態? パの規定投球回到達者わずか4人、データで見えてくる理由は…

条件を「100イニング以上投げた投手」に緩和してみると…

 以上のように、様々な理由が複合的に絡み合い、今季の規定投球回到達者の記録的な少なさにつながったと言えそうだ。その一方で、投球回の基準を規定投球回(143イニング)からやや緩め、100イニング以上を投じた投手を確認していくと、その顔ぶれからは面白い傾向が見えてくる。上記の条件に合致する面々は以下の通りだ。

二木康太投手(ロッテ)24歳
21試合 127回 7勝9敗 114奪三振 防御率4.11

山本由伸投手(オリックス)21歳
17試合 123回2/3 6勝5敗 112奪三振 防御率1.75

高橋光成投手(西武)22歳
21試合 123回2/3 10勝6敗 90奪三振 防御率4.51

今井達也投手(西武)21歳
20試合 121回1/3 7勝9敗 95奪三振 防御率4.75

高橋礼投手(ソフトバンク)23歳
20試合 124回2/3 11勝4敗 68奪三振 防御率3.18

石橋良太投手(楽天)28歳
26試合 114回 7勝6敗 114奪三振 防御率3.71

辛島航投手(楽天)28歳
25試合 109回2/3 9勝5敗1ホールド 78奪三振 防御率4.19

大竹耕太郎投手(ソフトバンク)24歳
17試合 106回 5勝4敗 106奪三振 防御率3.82

種市篤暉投手(ロッテ)21歳
24試合 102回2/3 7勝2敗2ホールド 119奪三振 防御率3.59

石川歩投手(ロッテ)31歳
25試合 104回2/3 6勝5敗5ホールド 69奪三振 防御率3.78

ボルシンガー投手(ロッテ)31歳
19試合 102回 4勝6敗 84奪三振 防御率4.32

 名前の横に現時点での年齢を列記してみると、今季は20代前半の若手投手たちが多くの経験を積んでいることがわかる。中でも防御率1点台と圧巻のピッチングを続けてきた山本の投球内容は特筆もので、8月から故障で約1か月間戦列を離れたものの、規定投球回まであと19回1/3。1試合平均で7イニング以上を消化していることを考えれば、残り試合で規定投球回に到達し、最優秀防御率を獲得する可能性も十分に残されている。

 また、残り試合での投球次第では今井も規定投球回に到達する可能性がある。防御率4点台後半と調子の波は激しかったが、クオリティスタート(6回以上を自責3以下)も10回達成しており、きっちりと試合を作る投球も少なくなかった。まだプロ2年目で規定投球回に到達した経験はないだけに、残る登板機会で先発としての役目を果たし、年間を通して奮闘した証を数字の面でも刻んでほしいところだ。

 加えて、初のオールスター選出と10勝を達成して飛躍を果たした高橋光(西武)、開幕から安定した投球を続けて2年目で自身初の2桁勝利を挙げた高橋礼(ソフトバンク)、6月下旬から大きく調子を崩したものの、開幕から先発陣の一角として安定した投球を見せた大竹(ソフトバンク)、4月末から先発ローテーションに定着して7勝をマークしている種市(ロッテ)といった、将来が期待される若手投手たちが1軍で多くの登板機会を得ている。

 とはいえ、2017年に規定投球回に到達した経験のある二木を除き、いずれも先発としての経験は浅い投手が多い。急激に調子を崩した大竹の例を見ても、年間を通じたコンディショニングに関して学ぶ部分は少なくないだろう。先述の榊原も含め、今季の経験を活かして来季以降に大化けする期待が持てる投手が多く存在することは、リーグ全体にとっても明るい材料だ。

 もちろん奮闘しているのは若手投手だけではなく、3年連続で投球イニングが3桁を超えた辛島、育成降格から這い上がって今季ブレークを果たした石橋、シーズン途中のリリーフ経験を経て再び先発として安定感を取り戻した石川、8月から復調傾向にある昨季の最高勝率右腕・ボルシンガーといった、中堅投手たちも一定のイニング数を消化しており、それぞれ先発投手として存在感を見せている。

 今季ケガに泣いた実力者たちが復活し、経験を積んだ若手投手たちが飛躍を果たせば、来季以降に143イニングをクリアする投手が一気に増えてくる可能性も秘めている。現に、石川、ボルシンガーに加えて、金子弌大投手(日本ハム)も終盤戦に調子を上げて復活の兆しを見せており、6月20日の1軍再昇格以降は先発として9連勝を記録しているニール投手(西武)も来季の活躍が楽しみな存在だ。今季はケガに泣かされた則本と岸もそれぞれ戦列に復帰してローテーションを回っており、過去に実績を残した好投手たちが本来の実力を発揮してくれる可能性は決して低くはないだろう。

 それまで規定投球回に到達していた投手がイニング数を減少させたとなると、そのぶん別の投手の投球イニングが増えることにもつながってくる。史上まれに見る異常事態は、若手や中堅の投手にとっては1軍の舞台で貴重な経験を積むチャンスにもなったはずだ。各チームにとって誤算の連続ともなった激動の1年は、裏を返せば、来季以降に向けて大いに意味のあるシーズンにもなってくるかもしれない。

(「パ・リーグ インサイト」望月遼太)

(記事提供:パ・リーグ インサイト

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