ロッテ背番号「9」福浦の背中 愛弟子・大松が幕を下ろす共にした傷だらけの選手人生
「福浦さんが引退する今年、一緒のタイミングでユニホームを脱ぐことになった。十分やったと思います」
「一緒に練習をさせていただけませんか。自主トレ、連れて行ってもらえませんか!」
その言葉には強い決意が感じられたのだろう。だから、福浦も二つ返事で承諾をした。「ありがとうございます!」断られることも覚悟の上だっただけに、あの日の事は一生、忘れることができない。それほど嬉しかった。
練習では、すべての動きを注視した。アドバイスを聞き漏らさないようにしようと公私ともに、いつも近くにいた。そして、その後も師弟関係はずっと続いた。08年、大松はついに開花する。24本塁打、91打点。チャンスに強い打撃で「満塁男」と言われるまでになった。その年から3年連続の2桁本塁打をマーク。福浦もそんな後輩が活躍する姿を自分のことのように喜び、共にさらなる練習に明け暮れた。
しかし、順風満帆な日々は続かなかった。度重なる怪我もあり出場機会が減り苦しんだ。そんな大松に「オレより先に辞めるなよ」と福浦は独特の言い回しで励まし続けてくれた。16年オフに戦力構想から外れた。真っ先に電話を入れた相手は大先輩だった。「こんな嫌な報告で申し訳ありません」そう言って謝ると涙がこぼれ落ちそうになった。今後の道に悩む大松に電話口の向こうにいる憧れの先輩は優しく励ましてくれた。
「オマエの今の気持ちに正直に生きろよ。まだ出来るという思いがあるなら、その気持ちを大事にしろ。やるのはオマエ。今の気持ちを大切にしてくれ」
その言葉に励まされ、新たな世界への挑戦を決めた。5月に右アキレス腱を断裂し、9月になって、ようやくリハビリを終えたばかり。そんな逆境はどこ吹く風とばかりに、力強く走り出した。2017年、ヤクルトへの入団が決まると勝負強い打撃で見事に1軍の舞台に返り咲いた。この年は2本のサヨナラ本塁打でチームに貢献した。2019年からは現役続行を模索しBCリーグの福井ミラクルエレファンツに入団。NPBでプレーをすることを夢見る若い選手たちと一緒にプレーをした。ハングリーさが求められる環境で模範となるべき姿を見せ積極的にアドバイスを続けた。そこには自分が福浦に憧れ追い求めてきた経験が原点としてあった。
8月に大先輩に引退する決意を伝え9月8日に発表された。引退の挨拶のため古巣の本拠地・ZOZOマリンスタジアムに姿を現した大松の表情は清々しく見えた。
「福浦さんにはつねづね『自分より先には辞めるなよ』と励ましてくれた。そして福浦さんが引退する今年、一緒のタイミングでユニホームを脱ぐことになった。十分やったと思います」
大松は思い出の詰まるウェイトルームにも顔を出した。そこは試合後もシーズンオフも毎日のように背番号「9」と汗を流し続けた思い出の沢山詰まる場所。青春そのものだった。深く一礼をしてその場を離れた。師弟ともに新たな人生を歩みだす。
(マリーンズ球団広報 梶原紀章)
(記事提供:パ・リーグ インサイト)