給与未払い、偽札、治安…元DeNA久保康友が明かす“波乱万丈”だったメキシコ生活

メキシコの有名なピラミッド、チチェン・イツァーを訪れた久保康友【写真:福岡吉央】
メキシコの有名なピラミッド、チチェン・イツァーを訪れた久保康友【写真:福岡吉央】

「僕の通訳に手渡された給料には、偽札が含まれていたこともありました」

――給料の支払いは?

「月に2回支払われていたのですが、ほとんどが遅延で、給料日当日に入金されたのは1回だけでした。前半戦を4位以内で折り返した場合は半月分のボーナスが出ると球団幹部が言っており、当初は分割で支払われるという説明だったのですが、未だに支払われていません。僕の通訳に手渡された給料には、偽札が含まれていたこともありました。メキシコでは偽札も普通に流通しているそうで、それを見たメキシコ人の選手たちは『偽札はトランプのジョーカーみたいなもんだからね』と言って、驚きもしなかったことに驚きました」

――治安は?

「危険だと言われる場所には行かず、夜は1人では出歩かないようにしていたので、危ない目には遭っていません。ただ、チームメートには、試合後タコス屋で夕食を食べている最中に車上荒らしに遭い、車の窓ガラスを破られ、遠征用のチームのバッグを盗まれた選手もいました。あとメキシコではないですが、治安の悪いベネズエラ出身の選手で、5年前に地元のスーパーマーケットのATMで現金を下ろした直後に銃で撃たれ、銃弾3発が体に命中。うち2発は脇腹から腹部にかけて貫通し、1発はいまだに銃弾が体内に入ったままという選手もいました。今でも登板中に腹痛に襲われることもあるそうです」

――そんな中でも観光も楽しんでいたそうですね。

「はい。シーズン中に観光に時間を注いだり、ケガをする可能性があることをするなんて、日本でやっていた時はありえないことでしたし、例えば海もスノボもずっと我慢していたんです。でも、せっかく海外にいるんだし、こっちの選手はオンとオフをはっきりと切り分けているので、野球のために全てを我慢することはやめて、自分も解禁しました。日本にいた時は野球とそれ以外が9対1の割合でしたけど、今はその逆で1対9。もちろん、投げる時はスイッチをオンにして全力で投げてますけどね。

 キャンプ中は練習後、毎日近郊の町を半日観光をしていました。シーズン中も、遠征先の観光地を調べて、練習に出発するギリギリまで遺跡や街の観光を楽しんでいました。先発する日も投げる2、3時間前まで観光したり、登板翌日、朝3時半に起きて、4時にホテルを出て早朝発のバスで遺跡に行ったり、セノーテで泳いだり……。一緒に行った通訳がバスで寝てしまい、ピラミッドのテオティワカンで降りるはずが、乗り過ごしてしまったこともありましたね」

――メキシコに住んでみて日本の良さを再確認したことは?

「日本のきっちりしているところはすごいと思いました。これを話すと教育の話にまでなってしまうんですが、日本の教育って天才も作らないけど落ちこぼれも作らせない教育をするじゃないですか。『この漢字10回書きなさい、できましたか?』って。全員同じことをさせられることについて、日本にいた時は『何でこんなことさせられんねん?』って思っていたけど、メキシコで生活していて、彼らが言われたことを覚えて行動に移せないことに驚いたんです。

 信じられないんですけど、遠征先のホテルの朝食で卵料理を食べたい時に、例えば卵を3個使って、トッピングにトマトと玉ねぎとチーズって頼むじゃないですか。それが、どのホテルで頼んでも、使う卵の数も違うし、頼んだ通りのものが出てこない。最初は『こいつら何でやらへんねん!』って思っていたけど、よくよく観察してみると、言われたことを単に覚えられず、行動に移せていないんです。中にはメモしているのに、その時点で間違っている。記憶能力の問題。自分は日本の義務教育の恩恵を受けていたから、訓練されていて落ちこぼれなかったんだなと感じました。

 メキシコでは貧富の差もあり、子供を学校に行かせずに若くから働かせる親もいるし、教育も日本ほどしっかりしていない。だから、子供の頃からホンマに好き勝手やっていたら、超天才か、何も覚えられない人間になるか、どっちかになる。日本の教育は、僕のようなできない奴にとってはすごい助け舟だったんだなと思いました」

――自身の今後については。

「レールの上に乗ったら面白くないので、流れのままに、思いつくままにやります。今は面白いからまだ野球がやりたい。でも来年になったらもう飽きたと言うかもしれません。今の気分はやる方向でいますけど。ウインターリーグはドミニカ共和国、コロンビア、パナマなど中南米の他の国でもやりたいし、夏にリーグがある欧州で文化の違いも知りたい。

 今はまだ行きたいリーグがたくさんあるので、オファーのことを考えると、プレーするリーグのレベルは下げないほうがいいと思っているから、まだ欧州には行かないですけど、いろんなことを想定しながら、引き続き海外で野球を楽しんでいきたいですね。ほかの国でもまた違った野球の見方ができると思うし、野球も私生活も観光も楽しみたいと思っています」

(福岡吉央 / Yoshiteru Fukuoka)

RECOMMEND