「ユニホームを着てる姿がみたい」 新妻の言葉を胸にトライアウトに挑む中日捕手
杉山がトライアウトへかける思い、来季もNPBのユニホームを妻に
今季当初はファームで先発マスクの機会が多かったが、夏場以降は三塁に名を連ねることもしばしばあった。違った角度から扇の要を見る事で新たな発見もあるはずだと自らを言い聞かせようとしたが、無理だった。「全部キャッチャー目線で考えちゃう。やっぱりキャッチャーしたいんだなって余計に思いました」。
課題のひとつだった打撃は、2軍で3割超の打率を残した時期もあったが「なんで上に呼ばれないんだろう……」。うまく消化できないまま7年目のシーズンが終わり、告げられた戦力外。心にしこりを抱え、家路に着いた。予想通りだった結果を人生の伴侶に報告すると、予想外の明るい表情が返って来た。
1年余りの交際を実らせ、今年1月に結婚したばかりの春香さん。4歳下の新妻の口からは、前向きな言葉しか出てこなかった。
「まだまだユニホームを着ている姿が見たい。人生終わったわけじゃないし、なるようにしかならないよ。信じているし、きっと見てくれている人はいる」
明くる日、スーツに身を包んで家の玄関を出ようとする背中に、また妻の言葉が飛んだ。「胸張って行ってこい!」。杉山は、重く濁っていた胸の中がすっと晴れた気がした。「落ち込んだのは9月30日だけでした。おかげで切り替えられました」。その日からほぼ休みなく、誰もいない時間のナゴヤ球場に来て汗を流してきた。
もちろん、できることなら来季もNPBのユニホームを妻に見せたい。人生の分岐点となるトライアウトを前に、悲壮感はない。むしろ憑き物が落ちたようなすっきりした表情で、杉山は言う。「まずはしっかりやりきる事。その先については、いろんな選択肢も出てくるかもしれないので」。3年前につかみ損ねたチャンス。今度こそは――。
(小西亮 / Ryo Konishi)