歓喜の瞬間を「形」に…「サヨナラTシャツ」などのグッズはどう生まれる?【パお仕事名鑑 Vol.10】

「オリ姫デー」イベントは、女性4人がチームを組んで企画・運営を手掛けた

 今シーズン、藤井さんが最も手ごたえがあったのがこの「オリ姫デー(6月開催)」だったという。

「コンセプトは、女性だけで女性のために喜んでもらえるイベントにする。そのためにMDから2名、営業とファンクラブから1名ずつ、部署をこえて4人の女性でプロジェクトを組んだんです。女性だけでチームを組んだのはこれが初めて。イベント全体に関わって企画から運営までを手掛けたのでとてもやりがいがありました。

「他にも『夏の陣』も好評で、予想を上回る売り上げでした。最初は心配だったんです。カラーは真っ黒だし牛のマークもいかついし、これ女性ウケは大丈夫なのかなって(笑)。それでどんなグッズがいいかとみんなで話し合いました。その結果大好評で、申し訳ないことなのですが売り切れ続出でした」

 もうひとつ、面白いエピソード。オンラインショップで吉田正尚選手の応援グッズ「正尚チャンスダンベル」を見ると「2019Ver.」と書かれている。

「この応援グッズは私が入社する前の2018年に、『マッチョをイメージした応援グッズを作ってほしい』という吉田正選手からのリクエストから商品化されました。そして、2019年バージョンとしてさらに吉田正選手から『元気に明るく応援していただけたら』ということで黄色のダンベルに変わりました。選手からもこういうグッズを作りたいという声が上がるときがあるんです。それを実現するにはどうしたらいいかというのも、やりがいのある仕事ですね

 藤井さん自身、グッズに思い入れがある。それが野球を好きになったきっかけの一つだったからだ。

「子どものころから野球が好きでした。きっかけになったのはファン感謝デーで選手がサインを入れてくれた帽子。今でもとってあります。あの時の感動が忘れられなくて、野球の仕事をしたいと思ったんです。今も球場で子どもたちを見ているとあの頃の私を見ているようでうれしくなります」

 ファンからのスタート。夢見ていた野球の仕事。それを実現するために。遠回りのようでいて、藤井さんにとってはそれこそが最善という道を選択してきた。新卒で入社したのは関西の大手私鉄。総合職で採用された。

「駅ナカの店舗開発や運営管理を担当。大型複合ビルの開業にも関わり、流通、MDの基礎をここで勉強させてもらいました。ずっと野球の仕事をしたいと思っていたので、MDや流通に従事しながら、これが将来、どう野球で生かせるだろうかという視点は常に持っていました。駅ナカは日々お客様がたくさん通るので商品展開が早く、どんなものを求めていてどう対応しなければいけないのかなど、とても役立ったと思います」

 2社目は東京で、プロチームやアスリートのセカンドキャリアや新人研修をサポートする会社に転職。野球の仕事に着々と近づいた。そこで気づいたこと。そしてこの仕事に求められるもの。

「球団職員はビジネスの視点、スキルがないといけない。売上もあるし、予算が足りなければ、足りない中でどうするか考えなければいけない。ただ、そうはいっても、仕事、仕事ってなってしまうと、ファンの人が欲しいものってなんだろうということがわからなくなりますし、面白いものが届けられなくなってしまう。これすごくかっこいい! このシーンをグッズにしたい! というファンと同じ気持ちも大事かなと思っています」

 藤井さんは夢だった球団職員として1シーズン目を終えた。2シーズン目への課題も掲げている。

「ファンの自分も忘れちゃいけないし、流通の視点ももってなければいけないし、でも目の前の試合はどんどん進んでいるしで今年は必死。こんなに動きが速いのかという、あっという間に終わった感じがします。本当に1年ついていくだけで精一杯でした。来シーズンは自分からもっと企画を提案できるようにしていきます。来季の計画はもう始まりますし、ファン感謝デー、正月の初売り、キャンプと続きます。ファンの人が欲しいものをちゃんと届けていきたいです」

◇過去のお仕事名鑑はパーソルの特設サイトからご覧いただけます。
https://www.persol-group.co.jp/special/pacificleague/index.html

(「パ・リーグ インサイト」岩瀬大二)

(記事提供:パ・リーグ インサイト

RECOMMEND

KEYWORD

CATEGORY