「メジャーで仕事がしたい」ー夏は米国、冬はメキシコで働く日本人トレーナーに迫る
最も嬉しかったのはイチロー氏との会話「トレーナーになってよかったと本当に思った」
メキシコのウインターリーグではトレーナーの仕事に専念できるが、米国での仕事はトレーナー業以外の業務も兼任しなければならず、さらに大変だという。遠征先に新たに契約を結ぶ選手が来た時は契約書類を用意してサインさせなければならず、ミールマネーの配布も担う。ほかにも書類作成、送付などの業務もあり、チームの誰よりも労働時間は長い。
「シーズン中は12時から24時半くらいまで球場にいます。月曜日も試合があることが多いですし、休みは月に2日くらい。米国も移動はバスですが、トレーナーはコーチ扱いになるので、バスで2席を使える。でもメキシコは2人掛けに2人で座る。米国は長い時は15時間以上の移動もありますが、メキシコは(米国への麻薬密輸ルートにあたるソノラ州、シナロア州を移動するため)夜中に軍の検問で起こされるので、あれが1番辛いですね」
トレーナーをしていて1番嬉しかったことは何かと聞くと、選手の復帰ではなく、意外な答えが返ってきた。「昔から憧れていたイチローさんと話せたことです。たまたまカージナルスのキャンプ地がマーリンズと一緒だった時に、マーリンズにいた知人がイチローさんに、カージナルスにも日本人がいるよと伝えてくれたんです。それを聞いたイチローさんがわざわざロッカーまで呼んで下さって、話をすることができました。もしトレーナーをしていなかったら、こんなことはなかったですからね。その時はトレーナーになってよかったと本当に思いましたね」。金村氏は感動の対面をこう懐かしむ。ちなみに、ケガをした選手が復帰することは、離脱していた期間やケガの重さに関わらず、一様に嬉しいそうだ。
トレーナーは基本的に1年契約。その仕事ぶりが評価されなければ翌年の契約オファーは届かない厳しい世界。その中で何年も働いてきた。当然、選手とは密に接する。ドミニカのアギラスで勤務していた時には、マニー・ラミレスが金村氏のマッサージを気に入ってくれ、お礼代わりに、毎回自炊した料理を球場に持ってきて差し入れしてくれたこともあったという。自らの腕前が直接選手からの信頼につながるのだ。
今後の目標は、メジャーのチームを担当することだという。「今後はまだ米国で挑戦したいですし、マイナーではなくメジャーで仕事がしたいですね」。その一方で「この経験を生かして日本のプロ野球で働いてみたいという思いもあります」という金村氏。そしてメキシコではウインターリーグで優勝し、カリビアンシリーズに出場することが目標だ。チームは現在、リーグの王者を決めるプレーオフの真っ最中。金村氏はメキシコ王者、そしてカリブの頂点を目指す仲間とともに、勝利を追い続けている。
(福岡吉央 / Yoshiteru Fukuoka)