まさに「斬り合いだった」 審判歴約30年の男が見た清原和博VS野茂英雄の対決
山崎夏生さんの“審判小噺”、現在は自称「審判応援団長」野茂英雄対清原は「斬り合い」だった
1982年からパ・リーグの審判員を務めた山崎夏生さんは、2018年に審判技術指導員を退職した後、審判の権威向上を目指して講演や執筆活動を行っている。これまでも多くのパ・リーグのスターたちを近い距離で見てきた。西武・清原和博、近鉄・野茂英雄ら、印象に残るシーンを振り返ってもらった。
清原選手が入ってきた1986年の春季キャンプ、僕は西武のキャンプ地に行っていました。噂には聞いていましたけど、驚いたのが、苦もなく金属バットと同じように(木製バットで)右に左に打ち分けて、(1年目に)31本、本塁打を打って、僕は間違いなく王(貞治)さんの通算868本塁打の記録を抜くと思いました。
打球の飛距離も桁違いでしたね。内角はうまく捌ける、外角はライトにきれいに大きな放物線を描く。あんな高卒選手はそれ以降、見たことがなかったです。みんな、最初は木のバットを使いこなせないんですが、3年くらいかかるんですよ。松井秀喜選手にしても筒香嘉智選手にしても、中田翔選手にしても……後に4番を打つようなバッターでも(時間は)かかっているんです。でも、清原選手だけは1年目から4番バッターを務められた。
マナーも非常に良かった。きちんと挨拶もするし。あの頃は、まだ強面でもなかったですね。日本一が決まる瞬間、涙するような、そんな純朴な男だったと思います。公式戦では平成の名勝負だったか…野茂対清原、伊良部対清原、そういう名勝負は裁きましたね」
野茂対清原――。18.44メートルの中の勝負じゃなくて、“斬り合い”だったですね。野茂選手は相変わらず、あの“ブスッ”とした顔を、いつもしてるんですけれどもね、それでも目は違いますよ。清原選手もなんとしても野茂選手のストレートを打ちたいという感じだったんですね。カーブやフォークじゃなくてストレートを打ちたい!という気迫がみなぎっていた。その時は、球審で見ていて、ちょっと震えがきました。ピリピリ感がね。2人ともニコリともしない。
僕の中で、ストレートの力と言ったら元ロッテの伊良部秀輝選手か、野茂選手なんですよ。スピード自体、野茂選手は最速が151キロか152キロくらい。でも、野球は体感速度の世界なんですよ。スピードガンの世界ではない。他のピッチャーが155キロ、160キロ出ていても野茂くんのストレートの方が速く見えましたね。2人とも共通してるのは体が大きい。だからものすごくマウンドが近く見えたんですよ。あとはその、球の回転率かな。実際浮き上がるわけないんだけども、浮き上がるように見える。落ちてくるあれが少ないからね。
体感速度では速く見える。そういう意味では(元オリックスの)星野伸之選手はストレートがだいたい128キロなんですよ。でも、パ・リーグのバッターは「速い、速い」と言うんですよ。それは、やっぱり98キロのカーブと独特の肘の使い方をしていて、いきなり頭の後ろから出てくるようなイメージ。それで初速、終速の差がないから伸び上がるように見える。98キロの変化球とミックスするから、“化学反応”を起こすんですよ。みんな詰まる、振り遅れてしまいます。結果的に176勝140敗。だから、プロ野球は技術の世界、体感速度の世界なんです、数字じゃないんです。それは審判の目で見ているとよくわかりますね。