虎最強助っ人から受けた衝撃 “平成の大エース”斎藤雅樹氏「ストライク投げたら…」
王貞治氏の年間本塁打記録に並ぼうとしていたバースに勝負を挑んだところ…
もう1人、プロ野球選手としてまだ駆け出しだった頃の斎藤氏に、強烈な印象を残した打者がいる。それが阪神で最強助っ人の呼び声が高いランディ・バースだ。1983年に来日した左の強打者は、2年連続3冠王という偉業を成し遂げた男。斎藤氏が肝を冷やしたのは、1985年の最終戦、10月24日に後楽園で行われた一戦だった。
「その年、阪神が優勝したんだけど、最終戦でバースが王(貞治)さんのホームラン記録(55本)に並ぶか並ばないか、あと1本まで迫っていたんです。僕もその日、防御率のタイトルがかかっていて。ただ、先発して8回くらい(8回1/3)をゼロに抑えたら抜く、という厳しい条件ではあったんですよ。
その試合前に、バッテリーコーチから『王さんの記録を抜かせるわけにはいかないから歩かせろ』って指示が出てね。1打席目はもちろんフォアボール。客席はもう大ブーイングですよ。それでも僕だって自分の監督の記録は抜かれたくないから『しょうがない』と思いながら投げていた。でも、3打席目であまりのブーイングにいい加減頭にきちゃって『もうストライク投げちゃえ』って投げたら、ガツーンとセンター前に打たれてね(笑)。いや、危なかった、危なかった」
結局、バースに本塁打を許さず、王氏の記録が破られることはなかった。だが、試合には敗れ、斎藤氏も防御率タイトルを逃し、「そんなに上手くはいかないね」と苦笑いで振り返る。バースとの苦い思い出はこの試合だけに限らず、「バースのホームラン2本で0-2で負けた記憶もある」とか。
「あまり対戦はなかったけど、やっぱりバースはすごかったですね」
名勝負を繰り広げた日々の記憶は、今でも鮮やかに脳裏に甦ってくる。
(佐藤直子 / Naoko Sato)